虫の知らせ

「ソラというのは」

「その空だ」


 もちろん絵のタッチは違う。

 しかし、絵の雰囲気や構図がそのままなのである。


「たまたまにしてはあまりに似てるんだよなあ」


 マジマジと眺めていると懐かしすら感じる。


「別段珍しいシーンではなさそうだけど」

「それはそうだな。じゃあ、ただの偶然か」

『むむっ、ミステリーかと思ったのですが』

「ははっ、ソラ君が作者だったら面白いけどね」


 残念そうなルーを慰めるようにフィオが笑う。

 年齢やら場所やら物理的に不可能なのだが、否定できない自分がいた。


『そういえばストーリー自体もソラさんが考えたものと似通っているとか』

「えっ、そうなのかい?」

「あ、ああ。作品として作っていたわけではないから概要だけだけど」


 本当に不思議なこともあるものだとフィオが漏らす。

 俺は同感と笑って合わせる。

 今まで空を思い出す時は懐かしい気持ちと寂しい気持ちが大半だった。

 だが、今日に限っては不安が込み上げてくる。


「ッ」


 ふと誰かの声が聞こえた気がした。

 名前を呼ばれたような。


『どうかしましたか?』

「ユーヤ?」


 後方を振り返り固まっている俺の顔を二人が覗き込んでくる。


「さっき何か聞こえなかったか?」


 二人は顔を見合わせた後、首を横に振る。

 俺の気のせいか……。

 結論づけても残る違和感。


「空……」


 無意識の内に幼馴染の名前が口から零れる。

 元気でやっているだろうか。

 それだけが知りたかった。


『お兄さん……』

「…………」


 事情をそれなりに知っている二人が心配そうな視線を送ってくる。


「ユーヤ」


 真剣な表情でフィオが名を呼ぶ。


「君の事情はわからない。けど、どうにかしてでもソラ君と連絡を取るべきだ」

「そ、それは」


 取れる物なら取りたいが……。

 あくまで同じ世界だと思っているフィオは続ける。


「昔ながらの慣習なのかもしれないけど、近年の魔法技術の発達は目覚ましい。特に連絡手段となると多種多様なものがある。中には意中の相手に直接パスを繋ぐことが出来るものもあるらしい」


 確かに凄い。

 でも、それは世界を境界線をも越えられるのだろうか。

 俺のために熱弁するフィオに水を差す気にはなれず黙って聞く。


「君のような実力者の勘は馬鹿にしてはいけない。無意識の内にテレパシーを受け取っているかもしれないからね」

「空は魔法を使えないからそれは」

「ある」


 あるらしい。


「そもそも多いか少ないかの違いで皆が魔力を持っている。だから、昔から虫の知らせは現場では大事にされてきた。父上もそれで部下の命を救ったことがある」

「な、なるほど」


 地球人である空も魔力を持っているのだろうか。

 ……英雄の記憶が物体化し、こちらの世界へのゲートを開いたのだ。可能性は十分にあるか。

 となると不安が増してくる。


「連絡を取りたいのはやまやまだけど……」


 肝心の物がなければどうしようもない。

 しかし、フィオは当てがあるのか外出の準備を促してくる。


『私はお留守番していますね』

「ごめん。少しの間だけ待っててくれ」

『いえいえ気にしないでください。それよりも今はソラさんです!」


 少し寂しそうなルーに謝りながら部屋を後にするのだった。

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