親友

 親しい友と書いて親友、わざわざ宣言してなるものではないが、たまたま確認をとる形となった。

 今まで友達と呼べる存在がほぼいなかったフィオが相手であるため、気恥ずかしかったが良かった……と考えていた。


「どうしたんだい? わからないところがあるなら、“親友”の僕に聞いてくれ!」

「ま、まだ大丈夫」

「そうかい? でも、何かあったら遠慮はしないでくれよ。カーティス家の名に誓って“親友”を見捨てない」

「お、おう。さんきゅー」


 キラキラと輝くオーラを身にまとい、やたら親友を強調してくるフィオは正直少しめんどくさい。

 いや、一日一回程度なら我慢できなくもないが、事あるごとに言ってくるのだ。休日だった昨日は数えてないが二桁は確実に超えていた。

 しかも、厄介な点がもう一つあって……。


「うっ」


 おそるおそるフィオの様子を確認すると、先ほどまでの明るさはどこへ行ったのだろうか。暗いオーラを身に纏うフィオがいた。

 前髪に隠されて眼元が見えないのが余計に怖さを引き立たせている。

 親友フィオはフィオと違って情緒が不安定らしく、俺がある言葉を出さないとすぐに落ち込むのだ。


「…………さ、流石は親友だぜ」

「それほどでも! まあ、僕とユーヤは“親友”だからね!」


 あのクールで大人っぽく、でも案外子供らしいところもあるフィオ・カーティスはどこに行ったのでしょうか。

 腕を組み、楽しそうにうなずくフィオの姿は可愛らしいのだが、あまりの変化に脳が追いつかない。

 浮かれているため一時的に変なことになっているだけ、だと思う。反動と言うやつだ。

 まあ、これだけ嬉しがってもらえると親友冥利に尽きる。


「あっ、ここなんだけど」

「ここの問題だね! 魔法は基本的に自身の魔力を使うものだけど、熟練度が上がれば道具や他人の魔力を使うこともできるんだ。それと言うのも――」


 聞き終える前に説明が始まった。勢いに押されることはあるものの、別に悪い気はしない。

 ……フィオの容姿が中性的で良かった。真面目な話、フィオが男男していたら気持ち悪いと感じてしまうだろう。

 中身ももちろん大事だが、残念ながら外見も無視できないのだ。

 と言うのも――


「それで作られたのが……ユーヤ? 説明速すぎたかな」


 反応の薄いのを心配したのか、顔を覗き込んでくる。気づけば教えるためではあるが、腕と腕が当たる距離にいた。


「だ、大丈夫。ちゃんと理解できてるから」

「そうか。それなら良い」


 嬉しそうに笑うフィオの表情は、まさしく女の子のそれに見える。今までのカッコいい、悪く言えばキザな笑い方とは根本的に違う。

 うん、本当にフィオが可愛らしい容姿をしていて良かった。これが隆司だったら三発は殴っていたかもしれない。

 この三か月間、取り払われることのなかった壁がなくなったと思ったら、次は壁がなさすぎる。距離の測り方を完全に間違えている。


「試験では試作機を完成させた“ルース・ウェルズリー”のことを問われる可能性が高いかな」

「ルース・ウェルズリーって多くのマジックアイテムの基礎を作った人だっけ」

「そう言われている。技術者達の多くは秘密主義で、マジックアイテムの製法などは家族や弟子などの親しい者にしか伝えないことが多くてね。実際どこまでがルース・ウェルズリーの作品かはわからないんだ。ただ、ウェルズリー家がマジックアイテムの名門であることは確かだよ」

「あ、そっか。そりゃ、子孫がいるよな」

「ルースは人一倍秘密主義だったらしく、功績は子孫や弟子が死去後に世間に伝えたと言われている。基礎技術も多く発見していたから、彼がいなかったらマジックアイテムの発展は100年は遅れていたと主張する専門家もいるよ」

「100年!? ふへ、凄まじい天才だったんだな」

「まあ、流石に100年は言いすぎかもしれないけど、それだけのインパクトを与えたとされている」


 “ルース・ウェルズリー”、ちゃんと覚えておかないと。

 フィオは俺の基礎知識を補うように関連する話を交えながら教えてくれる。試験だけを考えると覚える量が増えてしまうのだが、理解しやすいし、最終的には必要なためありがたい。


「いやー、ありがとうな。フィオの教え方わかりやすくて助かるよ」

「任せてくれ。ユーヤを立派な学生にするのも、“親友”である僕の役目だ」

「は、はははっ、心強いよ」


 それは親友の役目なのだろうか、との当然の疑問を胸を張るフィオにぶつけることはしない。下手に反応したら勘違いする可能性があるからだ。

 フィオ育成計画。あっちはあっちで俺を立派な学生にしてくれるらしいので、俺は俺でフィオの足りないところを教えていこう。少し変わっているかもしれないが、これはこれで良い友人関係だろう。

 差し当たっては、好意に報いるためにも勉学に勤しもう。


「そうそう、わからないところがあってさ」

「ああ、そこは――」


 教科書を覗き込むため、更に距離を詰めてきたフィオから優しい匂いが漂ってくる。

 ……距離だけは何とかしないと、罪悪感で死ねる。

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