幕間
「マスターゴブリンについては“把握していなかった”。構いませんね」
教頭の言わんとしていることを理解し、アリシアは目を細め、クレアは困惑した表情でチラチラと横を見る。
(やっぱり、上は知ってたんだわ)
身内が巻き込まれたこともあり、アリシアは上に説明を求めた。
そして、返ってきた答えは上記の通り。
ローランス学園の歴史は長く、また試練の洞窟も一年生への戒めとして使われてきた。
確かに、フロアは多岐に渡り、正解は一つしかないかもしれない。
しかし、アリシアはたまたま雄也達の運が悪かっただけとは思えなかった。
最初は引っかかりを覚える程度だったが、レイナが読んだという書物の話を聞き、確信へと変わった。
(学園長が“あれ”の内容を知らないわけがない)
何故なら、その本の著者が誰でもない学園長本人だったからだ。
滅多に人前に姿を現さない学園長は、いくつかの名前を使い分け、本や論文を発表していた。
アリシアの担当教官が漏らしたその名が偶然にも使われていたのだ。
故に、事の真相を聞き出そうと掛け合ったのだが、わかったのは“知っていた”ことだけ。
クレアは、アリシアがアイリスを大事にしているのを知っているため、暴れださないか心配していた。
そんなクレアに対し、アリシアは目くばせで大丈夫とだけ伝える。
「それでは、“もし”不測の事態が起きた時はどうなさるつもりだったんですか?」
「…………」
「学園は把握していなかった。なら、未熟な一年生が犠牲にあっていてもおかしくなかった。そうですよね?」
「……彼らも魔導士を目指す身、覚悟は「マスターゴブリンは国に報告しなくてはならない危険生物」確かに、未熟な一年生だとまず殺されてしまうでしょうね」
教頭の言い回しにアリシアが眉を顰める。
言っていることはおかしくないが、何か違う意味が込められているような。
(どういうこと? カーティス家の長男こそいるけど、アイリスもレイナちゃんも戦闘力はそれほど期待できない。それは知っているはず。ユーヤ君に至ってはただの素人……)
「あ、あの」
アリシアが考え込んでいると、不安げにクレアが声をあげた。
「どうかしましたか?」
「も、もしかして、学園長はいつでも助けられるように見ていた、とかですか? その、全員を、同時に」
「それは流石に……」
大魔導士と呼ばれる類の天才ならば遠見の魔法により監視、遠距離からの支援はできる。
しかし、生徒数を考えると人にできることではない。アリシアの反応は至極当然だった。
「学園長であればできるでしょうな」
「嘘!?」
「――と言うことは違うんですね」
驚くアリシアを横目にクレアは一押しする。
先程までの気弱さはどこへやら、鋭い視線を送る。
「……おや、どうやら目を覚ましたようですね。様子を見に行った方が良いですね」
だが、教頭は話を逸らすと件の魔法で確認したのか、雄也が目を覚ましたことを告げる。
話は終わりだと暗に告げていた。
「…………」
(行こう。これ以上は意味がないよ)
アリシアは尚も納得がいかない様子だったが、クレアは冷静に諭す。
そして、一礼した後、踵を返して扉の取っ手に手をかける。
「彼らは無事だった。それが全てだ」
「「ッ!」」
突如、投げかけられた答えに振り替えるが、そこに教頭の姿はなかった。
転移か、それとも姿を隠しただけなのか。どちらにせよ、二人が言葉の真意を問いただすことはできない。
(無事なのが、全て。それって――)
お互い口には出さなかったが、これから先、予想だにしないことが起きるかもしれない。
戒めを胸に、保健室へと足を向けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます