幻想

「あれを見てください」

隊員が窓の外を指差す。そこには少し茶色がかった惑星が浮かんでいる。

「今度はどうだろうか?」

「調べてみましょう」

隊員がその惑星に焦点をあてると、その惑星を中心としていろんな情報が浮かび上がった。

画面に映ったそれをよく眺めると、どうやら水はあるみたいだ。

「水はあるみたいですね、しかし問題は」

隊員が顔を少し曇らせる。

それもそうだ。私達は水ではなくこの宇宙船のための燃料を探しているのだ。

7日前に燃料がほとんど尽き、私達は立ち往生してしまっていた。

わずかながらの慣性で辛うじて進み続けてはいたが地球に帰る分の燃料がない。

今まで3つの惑星を見つけたがどれも既に廃れていた。

「生命体もいない…いや、ちょっと待ってください」

隊員が画面に顔を更に近づける。

「なにか動いています…あっこれは!」

私も画面を見てみる。すると、人間のような形の生命体がいくつかうごめいているのが見えた。

「でかしたぞ!私達の仲間だ!!」

「燃料があるかもしれない、行きましょう!」

実は方向転換をするために少しだけ燃料を残しておいた。

これがなくなれば文字通り燃料切れだが30年程ぶりに見る人間に皆興奮し、迷いなくその惑星に向けて舵を切った。燃料はその後すぐに切れた。

あとは距離的に2日だろうか。私達は安心して眠りについた。


「隊長、隊長!」

身体を揺さぶられ、私は眠り眼を擦る。

「うーん、着いたのか?」

「いいえ、ちょっとこれ見てください」

隊員が窓を指差す。

もうひとりの隊員はまだ寝ている。

「なんだい。」

ゆっくりと起き上がり窓の方に歩寄る。

窓の外を見て、愕然とした。

寝る前にはっきりと見えたあの惑星が忽然と姿を消してしまった。

「ばかな!まさか方向を間違えたのか?」

「いいえ、それが…」

隊員が言い終わらないうちにもうひとりの隊員が目を覚ました。

「ふぁぁよく寝た、あれどうしたんですか」

私を起こした隊員が黙って窓を指差した。

隊員は愕然として、

「夢、だった…?」

とつぶやく。

そして私達は顔を見合わせる。

どうやら、私達はたまたま同じ夢を見ていたようだった。

「旅の疲れ…とかですかね。こんなことってあるんですね。」

みんなうなだれた。

相変わらず私達は遭難したままで、燃料も少し残ったままだった。

なので私達はまた燃料を探さなければいけなかった。

しかし、仕方なくみんなが仕事に戻ったその数十分後、

「隊長、見てください。あれって…」

興奮した隊員に肩を叩かれた。

隊員の指差す先には、小さい茶色っぽい粒がある。

「まさか!」

画面に切り替え、ズームする。これは!

「夢でみたやつだ!」

私達は喜んだ。神様のおかげかも知れない。

私達は迷いなくそちらに舵を切り、みんなで抱き合った。


「でも、本当にくるんですかねぇ」

棒で石をいじりながら相方が言った。

「だってだいぶ昔の機械ですよ、コレ」

棒で機械をつつく。

「こらやめろって。でもなんもしないよりはマシだろう?もう食料尽きて7日目なんだからできることはやらなくちゃ。」

「でもこんななんの変哲もない惑星に欲しい物があるように見せかけるなんて。子供だまし過ぎて引っかかるのなんて地球人みたいな低レベルしかいませんよ。」

「地球人だったらなお良いじゃないか。奴らの乗ってる宇宙船が手に入るし、それに」

じゅるり。舌なめずりをした。

「人間の肉も食えるんだぜ。」

相方ははっはっと笑う。

「あにさんってマニアックですよね。」

しばらく2人で笑った。

「さーて、そろそろ来ないかねぇ。…おっと?」

東の方から宇宙船がこっちに向かってくるのが見えた。








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