異世界バランスブレイカー!!〜転移直後に魔王を倒した少年は、人に飯を振る舞うのが大好きな最強の存在でした〜

メアリー=ドゥ

俺サマは《救済機甲》ゼロ・イクス!


 ーーーここには、誰もいない。


 〝人類〟の名を持つ存在は、この世界から滅亡していた。


 オメガが周りを見回すと、そこは植物に支配されたビル街。

 連れ立って一緒に旅をする多くの動物たちが、食事の時間を謳歌しており、思い思いに草を食んだり、人工肉に噛み付いている。


 しかし寂寥せきりょうとした風が吹き抜けるその場所には、当然ながら文明の営みはなかった。

 機甲知性ヒューマニクスと呼ばれる自律思考する人型人造生命も、もう自分一人しか存在していない。


 ーーー虚しさ。


 もはや友となったその感覚の中、ふと、オメガの目に留まったものがあった。


「……扉?」


 美しく輝くそれは、光そのもので出来ているような印象があり、興味を覚えて近づく。

 まだどこかの電力が生きているのだろうか、と思っていると、そこから声が聞こえてきた。


『異空の勇者よ……』


 人の声。


 そう気付いた瞬間、オメガは跳ねるように扉の元へ向かっていた。


『女神に、 私の命を捧げてここに願う…… 人々を、救う力を持つ者を……我が願いを聞き入れる者を……この世界へと、いざないたまえ……』


 声は、何かを言い続けていた。


『彼方より此方へ……絶対の断絶を踏み越え、現れたまえ……異空の、勇者よ……』

「ユウシャ? 俺サマのことか!?」


 オメガは呼びかけるが、声は応えない。


『世界を、人を救う……使命を……継ぐ者を……』


 うわごとのように繰り返される言葉に、オメガは目を見開く。


「人……」


 扉を掴むと、さらに言葉を重ねた。


「そこには、人が、いるのか……!!」

『我が呼び声に、応えたまえ……』


 扉をくぐれ、という事だろうか。

 オメガは大きく息を吸い込み、振り向いて、自分と共に過ごしてきた動物たちを見る。


 彼らはまるで、意思を持っているかのように、こちらを見ていた。


「一緒に来るか? それとも、残るか?」


 この場にいる動物たちが争わないのは、オメガが肉食獣に十分な食事を与えていたからに他ならない。

 もし残る選択をすれば、人も、他の知性体もいない世界で、彼らは弱肉強食の掟の中で生きることになる。


 だが動物たちは、一匹としてこちらに寄ってくることなく……まるでオメガを見送るかのように、こちらを見つめているだけだった。



『我が同胞を救いたまえーーー異空の勇者よ』



 救う。


 甘美なその響きに惹かれて扉に目を戻したオメガは、息を呑む。

 扉の輝きと輪郭は、徐々に薄れ始めていた。


 救う。


「ーーー任せろ!」


 オメガは、吼えた。

 

 ヒューマニクスは、人のために生まれた。

 人と共に生き、人を助け、人と共に笑うために生まれたのだ。


 中でも、オメガは特別な個体だった。


『救済を……』


 それを望む人々の願いを、具現化した存在だった。


 そこに、人がいる。

 救いを、求めている。



 ーーー自分が救うべき者が、まだ、そこにいる。


 

 その代え難い喜びを感じながら。

 オメガは、天に向かって大きく手を広げた。


「俺サマは最強のヒューマニクス・モデルΩオメガ! またの名を《救済機甲》ゼロ・イクスーーー」


 自らを示す名を、高らかに謳(うた)って、両手の拳を握り込み。

 オメガは、扉に飛び込んだ。


「ーーー人を救う使命を、持つ者だァ!!」

 

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