10話.[決めたのだった]

「ちょ……、どうしたのよ……」


 やけに、積極的だった。

 休みになれば必ず家に来て抱きしめてくる。

 平日も前とは違ってよく来てくれるようになった。

 好きだって言葉、あれは本当だったのだろうか。


「い、いま、包丁を使用しているからあっちに行っていなさい」

「別にいいだろ、いまは触れてないだろ」

「近くにいるだけで気が散るのよ」

「じゃ、これぐらいか?」

「ええ、それぐらいならいいから」


 どうせこっちの体になんて興味もないくせに。

 だってあの美人な人たちは胸が大きかった。

 細かったし、モデルみたいな体型だった。

 けれどこちらは、非常に残念な感じで。


「いたっ」

「馬鹿、なにをやってんだ」

「だ、だからってなんで咥えるのよっ」


 慌てて洗って気恥ずかしさをどこかにやる。


「昔から俺はこうしてきたからな」

「それで治るの?」

「案外いいぞ」

「そうなのね」


 ついつい洗ってしまうが、その方がいいのだろうか。


「それより、指を切るなんて珍しいな」

「……あなたといた人たちはいいスタイルだったから気になったのよ。ほら、あなたも……そういう人を抱きしめられた方が嬉――」

「だからあいつらには彼氏がいたんだって、これだけ抱きしめたりしているのにまだ不安になるのか?」

「当たり前じゃない、ご飯を作ることや、勉強ぐらいしかできない人間だもの」


 メリットがないと言っても過言ではない。

 一応、彼女としてお弁当を作ったりもするが、それもなんか押し付けのような気がして微妙なのだ。

 だって単純に彼の方が美味しく作れるから。

 スペックの違いというやつを見せつけてくれるから。


「安心しろ、俺は明日香からの告白を受け入れたんだから」

「ええ……」

「大丈夫、浮気なんかしない、もししたら死んでもいい」

「そんなこと言わないで」

「はは、それぐらいでいるよってことだ」


 無理やりではなく同意を得てからキスをしておいた。

 初めてだから緊張するかと思ったが、すぐに終わってしまって拍子抜け。


「好きよ」

「はは、ありがとよ」


 あまり不安にならないようにしよう。

 マイナス思考をすると実際にそうなってしまうから。

 真っ直ぐに向き合おうと改めて決めたのだった。

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34作品目 Rinora @rianora_

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