09話.[なあ、好きだぞ]
迷惑をかけたこと、お世話になったこと、付き合ったこと、誕生日なこと。
その全てをひとまとめにして、早川家でケーキを作って食べてもらっていた。
「美味しい、明日香ちゃんはケーキも作れるんだね」
「はは、レシピの本を見れば誰でも作れますよ。それより、色々とごめんなさい。あとは、おめでとうございます」
「ありがとうっ」
菜緒は私が作ったケーキをほとんどひとりで平らげ、お腹を大きく膨らませていた。
素直じゃない新夜からイチゴを取り上げ、ふたりに渡して。
「危なかった、新夜さんがいなければ翼さんは取られていたからね」
「あなたの気持ちを知らなかったら翼さんを狙っていたわ、優しかったもの」
「あっ、あのとき叩いておいてよかった」
「なによそれ、あれは涙が出そうになったぐらいなのよ?」
いや、笑っているけど笑い事じゃない。
結局、あれについてはまだ謝ってもらっていないんだから。
「おい」
「洗い物がしたいのよ」
やっと喋ったと思ったらこんなこと。
この人と接するなら細かいことを気にしたら負けだ。
「待て、翼を狙っていたとはどういうことだ?」
「あなたが他の人を優先するって言うからどうでもよくなっていたのよ、そんなときに優しくされたら揺れるじゃない」
「……浮気するなよ?」
「あなたがしないでよ? あなたは私の彼氏なんだから」
「の割には最近、あの風邪のときみたいに甘えてくれないよな」
あれもほとんどやけになっていたからこそできた行為だ。
あの後は当然のように叫びたくなった、違う意味で消えたくなったぐらい。
それでも受け入れてくれたからなんとか生き残ったということになる。
「ちょっと、近いわよ」
「なあ、好きだぞ」
「嘘じゃない、私が泣いていたりしたから受け入れてくれたのでしょう?」
「違うよ、本当に好きだったからこそ受け入れたんだ」
「嘘……」
「おいおい……、同情で付き合うほど優しくないぞ俺は」
こっちのおでこを突いて笑ってくる彼には違和感しかなかった。
でも、好きだって言葉を引き出せたのは嬉しいから気にせずにおいた。
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