最強の力の真の実力はまた後日として、とりあえず決着
時間跳躍。
タイムトラベル。
タイムジャンプ。
過去、現在、未来を自在に行き来する力。
能力者の蔓延る世界となった現代においても、未だ誰も手に入れていない未知の力――とはなっているものの、実際どうなのだろうか。
例えば過去を改変して未来たる現代に戻ってきたら、当事者以外の誰が改変する前の過去を知っていて、誰が過去を改変出来たと証明してくれるのだろう。
未来を救済出来て過去たる現代に戻って来たとして、その先に待ち受ける未来はこうだったから今からやり直そうなどと、一体誰が信じてくれるのだろう。
曰く、未来は無数の筋から一つ選択して進み続けるあみだくじで、過去は選ばれた未来が落ちて堆積した砂のような物だと言う説もあるが、人一人で考えても未来に対して厖大な、それこそ無数に近しい選択肢があり、それらから選び取られたたった一つの過去が、これでもかと言う厖大な量で堆積しているのを考えれば、果たして誰が、未来と過去の改変について証明出来よう。
だからこそ未来、或いは過去から現代へとやって来た現実は怖い。
何せその時の自分を含めた、周囲の一切合切が証人で、誰も否定してくれず、夢だとも言ってくれないのだから、これ以上ない悪夢だ。
故に今、彼らは悪夢を見ている。
気付けているか否かはさておいて、これから数年、十数年後、とにかくいつかは生まれて来るだろう脅威を目の当たりにしている。
それの脅威を理解出来てしまえた者は、それこそ過去改変ないし、未来改変の力を望むだろうが、それは叶わない話だ。
仮にそういった能力者の所在を知っていて、彼らの協力を仰げたとしても、それが目の前にいる以上、過去も未来も、改変出来ていないし、出来ないと言う事なのだから。
* * * * *
戦域崩壊。
二つに割れた戦域が、二つの力を受けて次々と亀裂が入り、砕けていく。
本来ならば、両者戦線離脱で引き分けとなる場合だが、それは双方共に空を飛ぶ術がない場合の話で、実際、双方共に飛行能力を有している事など滅多にない事だし、そもそも戦域が崩壊する事自体、あり得ざる珍事。
しかし戦域は崩壊し、両者共に空を飛ぶ術ある今、戦いは戦域と言う限界を突破し、限り無き空を駆ける空中戦へと移行した。
落ち行く戦域の瓦礫の中から、掴み取れるサイズの小石を取って、投げる。
投げた小石の速度を倍にし、大きさを倍にして、巨大な大岩と化した瓦礫が、リニアモーターカーの最高速並のスピードで空を走る。
漆黒の翼を広げる天使は臆する事無く直進し、真白の炎を纏う剣で両断。続けて繰り出した灼熱の白い剣閃が、楓太にぶつかる寸前で存在そのものを零倍にされ、掻き消される。
大きく弧を描くように飛空。
限界まで加速し、剣を投擲しながら迫る天使は、赫然と輝く双眸の焦点に光を集束させ、裁縫の針と変わらぬ大きさまで絞って放つ。
剣の強度を脆くして、手で打ち払おうとした楓太より先に光線が剣を貫き、反射的に繰り出された楓太の手刀をも貫いた。
振り払った腕の中を駆け巡り、肘先から突き抜けた光線が後背で爆ぜる。
「油断したね、フゥ太」
桔梗の静かな笑い声が聞こえる。
楓太が自身を宙に留めるために作り上げた無重力の空間で、浮かぶ瓦礫に逆さまになりながらも座り込む彼女は、楽し気にブラブラと脚を振っていた。
が、次の瞬間には楓太の後ろにいて、吸血鬼を思わせるように首筋に噛み付く。
何とも痛々しく、情熱的な首輪が楓太の体に刻まれた。
「もしかして、妬いてる?」
「別に……ただ、フゥ太が世界ばかり見ているのだもの」
「やっぱり妬いてる」
反論の代わりか、それともより強い肯定か。とにかくまた噛まれた。
直後、前から天使が飛んで来て、双眸の焦点にまた赫い光を集束させているのが見える。
このまま撃てば桔梗をも巻き込む――が、彼女は自身が召喚した存在からの影響をまるで受けない。それを知らない大体の敵は相討ちを狙うが、楓太はもちろん知っている。
自身を中心とした一定範囲内の大気温度を下げ、霧を発生。
放たれた光線は霧の中で屈折。あらぬ方向に乱反射を繰り返して、自ら楓太を避けていく。
剣に炎を纏わせ、躊躇う事無く霧の中へと飛び込んだ天使は、突如剣から手を離す。
喉を押さえて苦しみ出すと、背後から翼を掴まれて消失。落下しそうになるが、無重力の生み出す浮遊感に捕まり、そのまま喉を押さえながら苦しみ、荒い呼吸を繰り返す。
しかし遂に気を失い、力無く項垂れたまま動かなくなってしまった。
「取り込める酸素量を倍にして、意識を奪ったのね」
「苦しいだろうけれど、痛くはないから」
「優しいのかしら。それとも差別? 準決勝じゃ、思う存分叩きのめしてたのに」
「……知ってる癖に。意地悪な子だね、キィちゃんは」
「お仕置きされちゃうの? 私」
「後でたっぷり、ね」
霧が晴れ、決着した戦いが露になる。
霧の中で一体何がされたのか。
毒リンゴを食べた白雪姫ないし、茨に刺さったオーロラ姫のように傷一つない姿で眠る桔梗が、楓太に抱き上げられた状態で息絶えており、貫かれたはずの楓太の腕も、完全に回復を終えていた。
「
* * * * *
霧中で何があり、何が起こったのか。夢中で見ていた客席の誰もわからない。
しかし誰も異論を唱えず、異議を申したてもせず、起こった現実をただ受け入れる。
理解し切れない。理解出来ない。理解が届かない。
それが黒髪能力者の能力なのだと言うあり得ざる常識の下、戦いを見ていた全員が、勝敗が決したと言う事だけを理解した。
『決着!!! 勝者、綾辻楓太ぁぁぁっっっ!!!』
学園長の興奮冷めやらぬ勝者宣言がされて、その場だけでの拍手が送られる。
戦域から黙って戻って来た楓太は抱き上げる腕の中で桔梗が起きると、顔に手を伸ばして来る彼女の要求に応じて、そっと口付けを落とし、交流試合の閉幕とした。
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