剣崎啓司
部屋に帰ったら、同棲中の
なにをそんなに沈んでいるのか、理由を聞いて思わず笑ってしまったら、噛みつきそうな目でにらまれた。
そういえば、おれのところにも
しかしまあ、たしかに、タイミングが悪いっちゃ悪いのかもしれないけど、違う角度から見ればむしろタイミングがいいような気もする。
どちらもめでたい話なのだし――ああ、そうだ。
どうせなら、おれと久美のことも『作中』で打ち明けてしまえばいいんじゃないか?
当時の『Dear K』企画と今回では趣旨も違うし、それもありなのではないだろうか。
就職してからこちら、めっきり遠ざかっていた創作熱がじわじわと戻ってくる。
というおれの意見を聞いた久美は、ぽかんと目と口をまるくひらいて、それから地獄から救いだされたような、心底ほっとした顔で二度三度とおおきくうなずいた。
ネガティブ思考にとらわれやすくて、そのくせやたら素直で、高校で出会ったときからなんだか目がはなせなかった。
だからこそというか、おれまでタイミングをはかりすぎてタイミングを逃すこと数年。ようやくつきあいはじめたのは大学を出てからだ。そして、結婚を前提に同棲をはじめてそろそろ半年。
彼女はもうすぐ、おれの奥さんになる。
(つづく)
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