宮藤久美

 まったく、タイミングが悪い。


 あたしはいつもそうだ。むかしからタイミングの悪さには自信がある。そんな自信持ちたくないのに。


 あのときだってそうだ。

 大学の学食で起こった集団食中毒。

 明日は従姉の結婚式――という日に、あたしは病院にかつぎこまれたのである。

 不幸中のさいわいといっていいものか。結婚式当日にはどうにか山を越えていたのだけど、最高におめでたい日に、とんでもない心配をかけてしまった。

 今でこそふつうに話せるようになったものの、当時は申しわけなさでメンタル的にも死にそうだった。食中毒なんていつなってもイヤだけど、よりにもよって――というやつだ。


 当時の記憶がありありと脳裏によみがえってきたのは、その食中毒騒動で流れてしまった『Dear K』企画を再始動させたいのだと古山こやまさんから連絡があったからだ。


 協力するのはまあいいんだけど、やっぱりタイミングが悪いというか……なんか、いいそびれてしまった。

 悪いことではないのだし、むしろうれしいことだし、べつに悩むようなことではないような気もするんだけど。


 ひとまずそれは保留にしよう。

 だいたい本題はそこじゃない。


『Dear K』企画のいちばんおおきなきっかけになった、文芸サークルの後輩、垣窪かきくぼ 恵子けいこさん。

 もっとも、あたしがおぼえていたのは、か行をひとりでコンプリートしていた子がいたということだけなんだけど。

 名前も、古山さんから聞いてうっすら思いだしたくらいだ。といっても、特別あたしの記憶力が悪いわけではない。と、思う。たぶん。

 なにしろ、食中毒騒動があったのは、垣窪さんがサークルに加入してまもなくのことだ。

 あのときは心身ともにバタバタしていたし、なんなら満身創痍だったし、それがおさまったころには就活が忙しくなって、創作どころではなくなってしまったのだ。結果的に、いれ違いのようになった垣窪さんとは、ほとんど話したこともない。


 まあ、単にあたしが不器用なだけかもしれないけど。

 現に加納かのうくんと、加納くんから部長を引き継いだ古山さん、それから垣窪さんと、ほかにも当時のサークル仲間たちが数人、ネットの小説投稿サイトを中心に現在も創作活動をつづけているらしい。

 みんなすごい。仕事との両立なんて、あたしにはできそうもない。


 それにしても、困った。あたしはほとんど垣窪さんのことを知らない。思いだそうにも、思いだせることがない。

 引き受けるまえに気づけって話だけど。しかたないじゃない。『Dear K』企画って聞いたら、なんかすごくなつかしくなっちゃって、気がついたらOKしていたんだもの。


 あーっ、もう! あたしのバカ!

 どうしよう……!



     (つづく)


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