第80話『袋のネズミ』

 翌日、事情を説明しに俺一人でギルドへ赴いた。

 昨日事前に裏口の鍵を渡して貰っていたので入るのは簡単だった。


 最初に遭遇した職員はハバナだった。

 ちょうどいい。


「あれ?トキナリ様どうされました?」


 てっきりまた一月ひとつきほど姿を消されるものかと言われた。


「実は俺達を追ってなのか、一悶着あった連中の姿を見掛けてな。これがあるから大丈夫だと思ったんだが、もし“そういう系を相殺する”魔法具を身に付けていたら厄介だ」


 言いながら俺の魔法具と、ハバナの魔法具を指差した。

 それだけでハバナは察してくれたらしい、


「では、しばらくまた姿を隠すと?」

「いいや。そろそろ次に移動するつもりだ。本来の目的地はまだまだ先だから」

「そうですか」


 てっきりここに住むと思っていたんだろうな。


「わかりました。次に立ち寄る街はもう決められてますか?もしよろしければ情報を回しておきますよ」

「助かる」


 予定ではハラ・ラハスン街へ向かうつもり。

 変な妨害さえ入らなければな。


 念のためとハバナと連絡交換しておいた。


 どんどん増えるな。

 そろそろ整理しないと。


「これで面白い話を送れますね」


 なにを送るつもりなんだろう。


「最後にターリャさんに会いたかったですが、致し方ありませんね。これを渡して貰っても良いですか?」


 ハバナがポケットから変な機械を取り出し、手渡してきた。

 指輪の先端に黄色の魔石と白い角のような突起二つが生えてる。


「なんですか?これ」

「大会中にターリャさんが怯えてましたので、気休めですが」


 説明によると小型のスタンガンだった。

 しかもただのスタンガンではなく、魔力の入れ具合によって効果が変わり、電気ショックから着火まで効能は様々。


「ありがとうございます。絶対喜びます」 

「よかったぁ!」


 最近のターリャはこういった武器にもなる小物集めに嵌まってるからな。


「後日、良い情報を送りますね!」

「??? わかりました」


 それから少しだけ話してギルドを後にした。

 さて、準備を急がないと。


 食糧やらを買い漁っていると、視線を感じ始めた。


「…………二人…三人か?」


 今のところ襲ってくるような感じではないけど、良くない視線なのはわかる。

 それに気配を希薄にしている魔法具を付けていているのに、ピッタリと俺に付いてくる。

 さりげなく建物のガラスで気配の方向を確認してみると黒い姿の連中が数人。

 カラスの仮面。

 あれがターリャの言ってた奴らか。


 念のためにターリャを宿に待機させておいて良かった。


 恐らく奴らは俺の顔が記載されたギルド新聞を見て追ってきている。

 なら、あえて俺が囮になって連中を引きずり出す。


 追わせやすいようにあえて油断しながら人気の無い道へと進んでいく。

 あくまでも道に迷った風を装いながら、誘い込む。

 着いてきているな。よし。


 路地裏に入った瞬間に走り出す。


 あちこちで声が聞こえる。

 よしよし、そのまま追ってこい。


 このまま行けば良い感じの袋小路に出る。


「さて、やるか」


 後ろから走ってきている奴が迫ってくる。

 ギリギリまで引き連れ、目の前の壁へ全力で走る。

 今だ!


 壁に足を引っ掛け駆け上る。

 一歩、二歩、三歩目で失速して体が傾く。

 振り返りつつ追ってきていた奴を確認した。

 カラスの面のせいで表情は分からないが、少し驚いている風だ。


 そいつの顔面に拳をめり込ませた。


 地面に叩き付けられた男が合図だったようにワラワラと他の連中が沸いて出た。

 まるでゴキブリだ。


 ターリャの話によるとコイツらは魔法を使う。

 詠唱だか魔法具だか分からんが、それを使う前にぶん殴る!!!

 近くにいる奴は殴り倒し、少し離れたところにいる奴は、倒れた奴を投げて巻き添えにしていく。

 あと何人だ?

 というか多いな。

 思ったよりも多い。

 飛んできた魔法弾を盾で防ぎ、そのまま盾を巨大化させて振り回す。

 六人倒した辺りで俺に近付かなくなってしまった。

 でも見た感じあと二人だ。

 一人は倒して、もう一人は尋問だな。


 カラスの他にも雇われた暴力団みたいなものも襲ってきたのは想定外だったが、まぁお陰で武器が手にはいるってもんだ。


 転がっているボーラ(錘のついた鎖もしくは紐の武器)を拾ってブンブン振り回す。

 これなら詠唱終える前に攻撃できるし、視覚的な脅しにもなる。


「三秒以内に答えろ。雇い主の名前、仲間の数、目的──」


 グワンと視界が眩む。

 なんだ?

 目が回る。


 激しい眩暈に倒れそうになるのを堪えた。

 なんだ、この大風邪引いたみたいな。

 毒か?

 いや、武器は受けてない。

 とするなら考えられるのはただ一つ。


 魔法だ…。


 でもおかしい。

 目の前の二人の魔術師は詠唱はおろか、魔法具を使っている素振りはない。

 その他の連中もいまだに地面に転がっている。

 まさか…、死角にもう一人いた??


 さらにグワグワンと地面が揺れて曲がる。


「うお……っ!」


 さすがに耐えきれなくて転がってしまった。

 ヤバイ、こんなところで動けなくなったら抵抗できずにやられてしまう!

 起きろ、俺!!

 起き上がるんだ!!


「やっと効いたか…。さて…」


 隠れていたらしき魔術師が姿を現した。


「ほら、今のうちに薬ガンガン打って移動をするぞ…」


 薬品と注射器持って二人に指示を出し始めた。

 しまった罠だったか。

 不味いなこのままじゃターリャの二の舞になる。

 せめて体のどっかしらがキチンと動けばそこから気合いで何とかするんだが。


「…………」


 駄目だ全然動かん。

 なんだこの魔法。

 風景がグルグル回って気持ち悪い。


 カラスがしゃがみこんで俺の腕を取り、注射針を突き刺した。

 そのまま中身が注入される、その時何かが走ってくる音が聞こえてきた。


「なにしてるんだお前らああああああああ!!!!!」

「!!!!?」


 やってきた何者かによってカラスが吹っ飛ばされた。





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