第79話『潮時である』

「それはだな。君と同じく避難してきたからだ」


どや顔でいうオーモダズィ。

君のところもあんなだったのかと同情し掛けたとき。


「というのは建前。君の顔を拝みにきた」


同情がすっ飛んだ。


盾を元に戻した。

あ、形が元に戻ってる。

それをオーモダズィにガンガンぶつけてドアの方へと追いやっていく。


「お帰りください」

「ちがう!ちょっ、待てって!話を聞けって!」

「なんですか…?」


盾を掴んで抵抗しているオーモダズィが必死に答える。

というか、結構力強いなこの人。


「お前、フリモだろ」

「それさっきも言われたけど、人違いです。誰?フリモさんって」


俺の返答にポカンとしているオーモダズィの代わりにハバナが答えた。


「フリモというのは、お伽噺に出てくる怪物です。暗闇に潜む恐怖の存在で、時折人を拐って消してしまうものの事です」

「それじゃあ、さらに俺に失礼じゃないか?」

「あともう一つ意味がありまして、恐らくオーモダズィ様はそちらの意味で仰っておるのでしょう」


オーモダズィが「ああ」と頷く。


「北境戦線、アイリスではロングスタですかね、そちらで猛威を振るっていた敵兵の一人に付けられた名前付きの名称です。どんな状況でも突っ込んできて猛威を振るう、脅威。気付けば隣にいる戦友が消えているという事でフリモと呼ばれてました」

「……」


はたと思い出した。

あの頃はまだ上手く言葉を聞き取れなかったが、そういえば俺に向かってそれに似た音を叫んでいたような気がした。


「…なるほどな。合点がいった」


盾を戻すとオーモダズィがほっと息を吐いた。


「俺はあなたを以前見たことがある。ロングスタ、北境戦線で」


兜に手を触れる。

それを見てターリャがやってきて、訊ねた。


「いいの?」

「ああ」


兜を外した。

解放感すごい。


俺の顔を拝めたオーモダズィが、感嘆の声をあげた。

ああ、やっぱりそうだったと、満足そうな顔している。


「な~るほどなぁ。ザウスの正体は、今話題のA級トキだったってか」

「見付かると厄介だから姿を隠してたんですよ。なのに兜を外せとか」

「いやー、それはすまんかった。まさかあんたがトキとは思わなくてな」

「そこはバレて無かったんかい」


それから話をすると、結構親しみやすい人だった。

ターリャも憧れのノンラ ドラ トオーユー使いだからか、恐る恐るではあったけど話し始めると止まらなくなった。

最終的には使いやすいノンラ ドラト オーユーをいくつか教えて貰っていた。


しばらくすると出ていたハバナが戻ってきた。


「舞台の修復が終わりましたので、これから表彰式を行います。準備をしてください」


だいぶ待たせると思ったら、舞台の修復してたんすね。








その後、表彰式はつつがなく終わり、トロフィーを手にいれた。

他の賞金やらなんやらは後日ギルドの方に届けられるらしい。


一度記者達の侵入を許したので、今度は職員が本気モードになって全力で俺を隠してくれ、無事にギルドへと戻ることができた。


鎧を脱ぐ。


「あー、疲れた」

「お疲れさま。焼き菓子あるよ」

「ありがとう」


全て脱ぐと、いつもの自分に戻れた気がする。

さようならザウス。


「さてと」


鎧を点検してみた。

事前に壊しても大丈夫みたいな条件取り付けたけど、確認はしておかないと気持ち的に嫌。

目立った傷は無いものの、やっぱり腕回りが細かい傷が多くある。

強いからって毎度鎧でガードはダメだな。


扉が開いてハバナや他の職員が入ってくる。

手には賞金やその他もろもろ。

目的のティアラもあった。


「トキナリ様おめでとうございます。それとご協力いただきありがとうございました。こちらギルドからのほんのお礼です」


そう言いながら、さらにお金の入った袋が追加された。

うん。

総額いくらなんだろ。


とりあえず持ち歩くわけにもいかないので、ティアラと他のお金じゃないもの、例えば魔法具なんかはマジックバッグへと仕舞い、それ以外をギルドの財行に預けて貰うことになった。


「鎧ありがとうございました。結構動き易くて良かったです」


腕のところに傷が付いちゃいましたがと言えば、職員のなかのメガネの人が「いえいえいえ」と物凄い笑顔で回収した。


「こちらとしても良い実験情報が手に入りました。うひひっ」

「……」


なんだこの人怖いな。


鎧を撫で回しながら鎧ごと部屋から消えていった。

そろそろとやってきたハバナが。


「あの人は竜種装備の研究者で……」


と、それとなく教えてくれた。


「……なるほど」


全て察した。

鎧の性能を確かめるテストでもあったわけか。

だから上乗せ報酬。


その後少しだけ話をした後、解散になった。

しばらくは記者が押し寄せるだろうからと、裏口から出してくれた。


「裏口っていっても結構離れてるな」

「地下通路通ったもんね」


後ろにギルドがあり、その方向へ人が流れていく。


もっとも俺達はすでに気配を希薄にする魔法具を付けているから問題なし。

だけど何だかターリャの様子がおかしい。

しきりに辺りを見回している。


「どうしたんだ?」

「うん……。その、宿に戻ったら話す」

「? わかった」










宿に戻るなり、ターリャが話してくれた。

以前拐われたときに見たカラスの連中の事。

それらが会場で見かけた事など。


魔法具で見付からないとは思うけど、ギルドの職員の例がある。

気は抜けない。


「……潮時だな」


思えばここに長く居すぎた気もする。

まだ図書館は通い足りないけど、ターリャの安全が最優先。

そろそろ移動しないと。


「ターリャ、準備だ。明後日にはここを出よう」

「わかった」


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