第53話『セリアという少女』

 金色の割合が多い街。

 それがショニリ・ニアだと言われている気がする。


 何処を見ても金色が目に入るのが凄い。

 別に黄金ではないし、アイリスにはいないとある妖魔、ウンドラの人曰く黄金蝶(マィエアプ)の羽を金箔のように張り付けているだけらしいのだが、まぁ人というものはキラキラしているのにめっぽう弱いものだ。

 目が勝手に向いてしまう。


「トキ、あそこにあるのなに?」

「ん?」


 ターリャに示された場所にあるのは、屋根の上に乗っかった丸い岩。

 その岩には横線と渦巻きが黄金蝶の羽で描かれている。


「えーと、確か守り神の像じゃなかったか?」

「岩が?」

「岩が。本で、ウンドラの信仰する神さまの1つに、メムって名前の尻尾のはえた人間の神さまがいたはず。その加護にあやかりたい時に、あれを乗せるとか…」


 丸い岩なのは巨大な石の卵から産まれたとか、なんとか。

 ヤバイな、もう一度図書館で読み直そう。

 忘れちまってる。

 けれど、神さまの一人がそれなもんで獣人に対して対応が温和なのはありがたい。

 ウンドラにきて、まだ一度もアイリス人差別を受けてはいない。

 喋るとアイリス訛りが出るらしく、「??」って顔はされるけど、それだけだ。


 街を見て回っているとドンチャン騒ぎをしているところがある。


 あれは大道芸か。

 お、屋台もあるな。


「!」


 ターリャの足が遅くなったのを感じてターリャを見ると、視線が屋台に釘づけになっていた。

 最近屋台回ってないもんな。


「ターリャ」

「!」


 ターリャがこっちを見る。

 実はターリャは少し成長してからワガママを言わなくなっていた。

 大きくなったから、お姉さんらしくしようとしているんだろうな。

 俺から見たらまだまだ子供だけど、ここはターリャを第一に考えよう。

 でも、たまにはワガママを言えるよう環境を整えるのも大人の役目だ。


「今日は遊ぶ日にしよう。屋台巡りとかしないか?」


 ターリャの表情が明るくなる。


「うん!」


 よし、まずはルシーを預けに行こう。







 手に持ったパン。

 ふっくらホクホクとしているパンの中に入っているのは、辛い味付けの肉と根菜多めの煮込みだ。

 味はカレーに似ているが、なんでカレーの中にフルーツがざく切りで入ってんだ?


「どうしたの?難しい顔して」

「いや、なんで正反対の味を入れるのかなと」


 酢豚のパイナップル然りである。


 頭にはてなを浮かべながら、ターリャは俺と同じ屋台料理のロミョオカ・ハーというパンを一口齧る。


「美味しいよ?」

「うん。美味しい」


 そこは間違いない。

 もう一口齧る。

 うん。美味い。


「ついでにあの見世物も見ていくか」

「そうしよう!」


 ターリャが嬉しそうに駆けていく。


「ターリャ、あんまり急ぐと迷子になるぞ」


 俺の言葉に速度を落とすターリャ。

 無事に大道芸が見える位置に来ると、ターリャが頑張ってつま先立ちをしている。


「肩車してやろうか?」

「うっ、だ、だいじょーぶ!」


 強がってはいるけど、足が辛くなってきたらしい。

 俺の腕を掴んで寄っ掛かり始めた。


 大道芸はファイヤーダンスや、ジャグリングだった。

 日本にいるときに見たことがあるけど、いつ見ても凄いと感心する。

 熱いだろうに。

 それとも熱くないのか?


「!」


 ふと、視線を感じて人混みを見たが、こちらを見ているらしき人はいない。

 気のせいか?


「ターリャ?」

「……」


 ターリャも俺と同じ方向を見ている。

 だけど、なんだか様子がおかしい。

 いつになく集中しているような……。


「トキ、いたよ」

「…いた?」

「ターリャと同じ人」

「!!」


 ターリャが俺の腕を掴んだまま進み始める。


「ちょ、おいターリャ…!」


 俺の声が聞こえてないのか、人混みを掻き分けてどんどん進む。

 その時、ターリャの視線の先にこちらを見る少女を見つけた。

 変わった形の帽子を深く被った黄緑色の髪の少女は、こちらを見るなり人混みに紛れた。


 だけど、少女を見失ってもターリャの足は止まらず、ついには駆け出し始めた。


 なんだ、ターリャと同じ人って。

 どういう意味なんだ??








 ターリャに引っ張られ、とうとう街の外に出てしまった。


 そこで俺はあることに気が付く。

 視線が強くなっている。


 そう、人混みで感じたあの視線がターリャの向かう方向から強く感じる。

 敵意ではないけど、観察されているような。


 野原を駆け、視線の先に人混みのなかに消えた少女が見える。

 その隣には若い男性。

 ウンドラ人ではない。


 ターリャが速度を落として、止まる。


「…ふふ」


 少女が小さく笑い、帽子を取った。

 頭に生えた白銀の枝のような角。

 桃色の瞳は、瞳孔が横長で、まるで鹿のようだ。

 だけど、腕にはターリャの額にあるのと似ている鱗があった。


「久しぶりね!ターリャ!百年ぶりくらいかしら??」


 百年ぶり??


「ターリャ、知り合いか?」

「…ううーん…」


 悩んでいる。

 もしやまだそこの記憶が朧気なのか。

 というよりも、真面目そうな感じの子なのに、開口一言目で冗談が飛び出るとは思わなかった。


「……ちょっとわかんない」

「そうか……」


 ターリャの言葉に少女はショックを受けている。


「………………ぇ」


 まずい泣きそうだ。

 なんとかターリャが記憶を無くしていることを伝えてあげないと。

 男性の方も少女が泣きそうになっていて狼狽えている。


「ちょっと待ってくれ。実はターリャは──「許せない」──へ?」


 目に一杯に涙を溜めた少女が、叫んだ。


「この青龍セリアがわかんないですって!???敗者なんか覚えておく価値はないっていうの???あーーそうですか!!!だったら私だって同じようにしてやるわよ!!!」


 ゴウと、セリアと名乗った少女の体から凄まじい圧が放たれた。

 めきめきとセリアの周りにある草が謎の急成長をして揺らぎだす。


 セリアがキッと、ビビっているターリャを睨み付けた。


「次の女王の座は私のものよ!!!」



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