第52話『ショニリ・ニア』
なんの幸運か、冒険者の登録もそのまま引き継げてしまった。
さすがは世界を股に掛ける冒険者達。
国も冒険者が涌き出る妖魔駆除と、それで手に入る素材で経済が回るので目をつぶっているらしい。
尤も更に南の国では文字が変わってくるから新しいタグの発行をしないといけないそうだが。
掲示板のターリャでもできる手頃な依頼書を剥がして受付へ。
さて、この受理された依頼でターリャの実験をしてみようじゃないか。
翌日、ルシーに乗って簡単な弱小妖魔退治に向かう。
ターリャが手をわきわきさせているのを見て声をかけた。
「なんだ?心配か?」
「うん。上手くできるかな」
「大丈夫だ。ものの1ヶ月で料理も上達したんだ。ターリャは努力の才能があるんだから心配するな」
「努力の才能…!」
「もちろんそれを可能にする才能もある」
「おお…っ!」
実際ターリャは勉強するもの全て習得してきた。
料理も、魔力も、魔法も。
今では魔法言語の1つと言われるギョサィユプ語まで習得しようとしている。
俺も頑張らないとな。
せめて一人でB級パーティー並みの動きができたら、また竜種に遭遇しても平気なんだけど。
ちなみに冒険者ランクBとパーティーランクBは大分違う。
パーティーランクは在籍している冒険者のランクによって変わる。
俺は今冒険者ランクBだけど、ターリャは一番下のFだから実質パーティーランク(とはいえ無名で、関係は師弟)はD。
それは俺が長い間ランクBの経験豊富者だからだ。
じゃなかったらEだった可能性がある。
といっても個人で依頼を受けるだけならBも受けられはする。
その際はパーティーでの成果にならないから支給額は下がるが、俺たちの場合は個人での方が儲かる。
まぁ、ターリャも魔法が使えるようになったし、依頼達成率も上がっているからそろそろランク上がりそうだけどな。
Dまでは依頼達成率で自動昇級だけど、そこから先は昇級試験がある。
俺は盾職だったから上がるのに苦労したけど、ターリャならなんとかなるだろう。
そうなるとパーティーランクも上がるな。
名前も考えておいた方がいいのかな。
聞き慣れたターリャの鼻唄をBGMに、目的地の林に辿り着いた。
ここでラビラット(手先が器用なウサギみたいな妖魔。尻尾が長くてフワフワで可愛いが、野菜を齧るので捕獲対象)を出来る限り捕獲する。
けれど、すばしっこいし歯も爪も鋭いし、何より脚力が強いから捕まえるのは慣れてなかったらなかなか難しい。
「ここで捕まえるの?」
「そう。本来は罠を張るんだけど、ターリャの水なら問題なく追い詰められるし捕獲できる。巣を探し出すからやってみようか」
「わかった!」
ラビラットの糞や齧られた跡を辿ると、すぐに目的の巣穴を発見した。
「よぉーし!」
「待てターリャ。巣穴は1つじゃない」
「そうなの?」
「ああ」
「小型の妖魔は複数の巣穴を繋げている。ラビラットの場合、だいたい4~6個はある。だから、その全部に罠を仕掛けるか、もしくは一ヶ所残して多数からせめて一網打尽を狙うかって感じだ」
「なるほどー」
といっても今回はターリャ一人でやる。
罠を設置するなら手伝おう。
ターリャはしばらく悩み、決めた。
「一ヶ所に追い込む事にした」
「ほお?」
こりゃお手並み拝見ってところか。
「だから、巣穴を見つける方法教えて!」
「おう。よーく覚えるんだぞ」
少し離れたところで待機してターリャを見守る。
これは、ターリャの依頼だからターリャが主導でやらないといけない。
盾で姿を隠しながら巣穴を確認している。
目の前のひろめの穴に罠を設置。
設置っていっても大きな網を張っているだけの簡単なもの。
あいつらは耳が長くて警戒心が強いから、大掛かりのものは設置している最中にばれて逃げられてしまう。
「よっと…」
ポコポコとターリャの周りに水の玉が生成される。
「おりゃ」
それを確認した巣穴に向けて放つと、ふよふよしながら飛んでいき、巣穴の中に潜り込んだ。
次の瞬間、巣穴が慌ただしくなった。
ターリャの作戦では水で通せんぼしながら追い詰めると言っていたけど。
「……」
あれよあれよという間に出口に音が集まりだし、巣穴からたくさんのラビラットが飛び出してきた。
次々に網の中に入るラビラットが、突如網の中に発生した水の中に呑み込まれる。
ラビラットは急停止が苦手だから、まるで飛び込みの練習を見ているかのようにみんな綺麗に水のなか。
最後に巣穴に潜り込んでいた水も、ラビラットを呑み込んで合流した。
「……」
才能ありすぎだろ。
後ろを振り向けば、見逃した巣穴から脱出成功したラビラットが、ターリャの水に追われていた。
もっとも、あっという間に捕獲されたけど。
網一杯になったラビラットを持ってきたターリャが笑いながらやってきた。
なお、水は消しているけど、ラビラットはみんな気絶していて大人しい。
「見て見てー!トキー!たくさん捕れたよー!!」
「うん。凄いな才能の塊だわ」
「褒められてる???」
「俺の記録大幅更新された」
「ほんと!!?やったぁ!!!」
ターリャ、恐ろしい子。
こりゃあ、俺のレベルなんかあっという間に抜いていきそうだな。
「ある意味楽しみだな」
ターリャの魔法の使い勝手のよさを確認してからは、黙々と依頼をこなしてお金を稼いだ。
俺も依頼を受け、ターリャを連れて狩りをする。
ついでに関係無い妖魔もお駄賃とばかりにちょちょいと狩って魔石をヘソクリ袋にポイ。
肉は解体して、街で肉屋に売った。
骨は鍛冶屋。
そんな感じで一週間ちょいほどで結構お金がたまった。
やっぱり捕獲依頼で、ターリャがほぼ無傷で捕るからそれで引き取り額が跳ね上がっているのが良い。
さすがに中型、大型になってくるとターリャができることが限られてくるけど(顔に水をへばりつけて呼吸の阻害とか、視界を奪うとか)、こちらとしてはとてもやりやすくて助かる。
「ねぇ、見てー!新しい攻撃方法ー!」
俺の真似をして、ターリャが剣先に溜めた水を勢いよく発射した。
さすがにウォーターカッターみたいにはならないけど、大きめの石を凄い速度でぶつけたみたいな衝撃はある。
牽制には良いだろうな。
脛とか鼻にぶつければ、戦意喪失させることもできるしな。
いや。
目線の先にある木が、ターリャの水球を受けてへし折れた。
それなりに戦力だな、これ。
「次は地面をズブズブにする!」
「ターリャの成長が凄まじい」
何を目指してるんだこの子は。
そうして一月を街で過ごし、ターリャがクラスEになったところで次へ行くことになった。
「ルシー、新しい鞍可愛いね!」
ブルルルとルシーが啼く。
この子、メスだった。
なので、ターリャの意見を優先的に取り入れたら、鞍に雪とリボンの装飾ができた。
内心複雑。
おっさんがリボン付きの白馬に跨がってるとかどうよ?
「……ルシーはターリャ専用にするか」
「なんか言った?」
「いんや、なにも」
特になにも問題なくウンドラを南下し、もうじきウンドラの首都であるショニリ・ニアが見えてきた時にターリャが「ん?」と首をかしげた。
「どうした?」
「んー、なんだろ」
ターリャがショニリ・ニアを指差す。
「あそこに、ターリャと同じ人がいる」
「…………はい?」
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