第51話『ターリャの成長がやばい』

 ギルドに入って驚いた。

 内装がかなり違う。

 いや、基本は同じだけれど、アイリスの建築とは全く違う。

 なんだこの天井。

 万華鏡か??


「綺麗だね。どうしたの?」

「いや、ちょっと…」


 なんでか修学旅行を思い出していた。

 お土産万華鏡だったからかな。

 天井観察もほどほどに、低ランク依頼書掲示板のとなりにいる文字読み専門らしき職員に声をかけた。


「すみません」

「はい。読み上げ料は三枚で銅貨一枚になります」

「あの、読み上げではなく図書館の場所を探しているのですが、どちらにありますか?」


 なんだ違うのか、と少しがっかりされた。

 すまんな。


「そこの階段を下りて、地下にあります。飲み物は禁止、あと、マジックバックは中に入っている間使用ができなくなりますのでお気をつけください」

「分かりました。ありがとうございます」


 教えられた通りに階段を見つけて降りていく。


「なんで飲み物禁止なの?」

「本は高いだろ?」

「うん」

「濡れて文字が読めなくなったら大変になるからな」

「あ!ほんとうだね!気を付けよう!…マジックバックは?」

「窃盗防止かな?」


 万引き的な。

 本は高く売れるというし。


「それは駄目だね!」

「ついでにいうけど、図書館内では…コショコショ話だからな…怒られるぞ…」

「!」


 ぱんっ、と両手で口を押さえるターリャ。

 背が伸びてもこういう所が変わらなくてホッとする。


 事前にちょっと水を飲んで、図書館らしき所に出た。


「……これは、魔法陣か?」

「魔法陣だね」


 床に変な模様が刻まれてる。

 魔法陣なんて最近全然見てないから、こんなだったっけ?ってなっている。

 まぁ、見たの十年は前だしな。

 うろ覚えだったんだろう。


 扉を開けると職員が待ち構えていた。

 ウンドラ模様が凄い服だ。

 制服なのか?


「こんにちは。図書館をご利用ですか?」

「はい」

「では事前に一人当たり金貨一枚と銅貨一枚をお預かりします」

「えっ」


 聞いてないぞそんなの。


「金貨一枚は帰る際に返却いたします。もし破損がありましたら金貨からのお支払いになります。銅貨につきましてはこの図書館の利用料です」

「なるほど」


 少し高いけど、本は貴重だからこんな感じか。

 しかし金貨二枚銅貨二枚はキツいな。

 アイリス価格で一万五千か。

 でも汚したりとかしなかったら金貨は戻ってくるんだよな?


 一通り説明を受けてお金を払って中にはいった。


 扉の前にあった魔法陣は中にも続いており、説明によると図書館の環境を一定に保つためなのだという。

 マジックバックにも魔法陣のお札を張られた。

 試しに開けようとしたら開かなかった。

 当たり前だけど魔法凄いな。


 その他にも持ち出し禁止だとか、お手洗いは何処とか(本が魔法で持ち出せなくなっている。強制的に机に置かされるらしい)、水分補給の場所は何処とか。

 基本的なことだな。


 本棚のプレートを見ながら目的の本を探す。

 ターリャが探していたギョサィユプ語の本を見てターリャがビックリしていた。


「これ本?」

「本っつーか、巻物だな」


 巻物を1つ手に取り開いてみる。

 すぐに閉じた。


 紙一面にびっしりと謎の記号が羅列している。

 見慣れた日本語でなければここの文字でもない。

 ここに来てすぐの悪夢が甦り、げんなりした。

 見なかったことにしよう。






 ターリャが職員に机に設置されていた使い方不明の謎道具の使い方を聞いてきた。

 両サイドにハンドル付きスクロール機、窪みに巻物をセットして回すと、手間取らずに流し読みできるという代物。

 戻すときは反対側のハンドル逆回しをする。


「おもしろい」

「おもしろいな」


 なに書いているのかさっぱりだが、ひたすらに文字が流れるのがおもしろい。

 おっと、こうしている場合じゃなかった。


 俺も目的の本を手に取り、読み始める。

 良かった。

 文字や文法が同じで。

 全く違うものだったらちょっと泣いていたかも知れない。


 一通り読み終え、なんとなくウンドラの基本知識が分かった。

 これで変な事に巻き込まれることはないだろう。

 無いと思いたい。


「……」


 ターリャはまだ真剣に読んでいる。

 そんなターリャを眺めながら、先ほどの情報を思い返す。


 やはりアイリス人が多かったのは、俺たちのような不法侵入者が多かったからだ。


 冒険者はもともと国境を超えて活動していて、ここの地域では深い交流があったのだという。

 戦争時はその交流が断たれはしたが、終戦した今は元通りまではいかないけれど、緩やかに戻りつつあるのだという。


 まぁ、じゃなかったら洞窟を抜ける道具なんか売ってないもんな。


 とはいえこの地域を抜ければアイリス人への当たりは強くなってくる。


(といっても、俺もターリャもアイリス人の顔をしていない。だからそこはまだ安心だろうな)


 ターリャが読み終えてハンドルの逆回しを始めた。


「読み終わったか」

「うん。凄く難しかった」

「だろうな」

「でも楽しかった」

「凄いな」


 俺なんか一目見て閉じたのに。


 本を元の場所に戻した。


「そろそろギルドの方に行くか」

「うん。そうしよう」


 職員の人にありがとうございましたとお礼を言い、破損や汚れがなかったので金貨二枚が戻ってきた。

 それだけで凄いホッとする。


「またのご利用をお待ちしております」


 職員に見送られて階段を登る。

 しばらくお世話になるだろうな。


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