第33話『しばらく回復痛に悩まされた』
アウレロ達と合流して早々に背中の放置プレイ中のナイフをターリャがバラしてしまった為ちょっとした大騒動になり、結果、抜かずに(大出血した際の処置が微妙という理由)子供達と一緒に病院に担ぎ込まれてしまった。
知ってるか?
刺さっているのを抜くときの方が痛いんだぜ?
何でだろうな??
「なんでターリャ達よりも入院期間長いんだ…」
ギルドの計らいで、現在シーラ街のギルド専属の病院に強制入院させられていた。
入院っていうか、監禁…。
「おはようございます!元気ですか?」
医者がやってきた。
「患者をベルトで拘束するな」
「だってトキさん脱院しようとするじゃないですか」
「……」
横になりっぱなしは辛いんだよ。
でもやっぱり冒険者専用の医者って感じがする。
容赦ない。
「今日はターリャちゃん退院ですから、面接オーケーにしておきますね」
ちなみにターリャはオレンジ色の光を発する魔法具と、催眠香の中毒症状( 軽度 )だったので、抜けるまでこんこんと眠り続けていた。
そんなターリャが心配で様子を見に行こうとしたんだけど、抜け出そうとする度に周囲にいる医者や看護婦達に体当たり・拘束・連行の3コンボを喰らっていた。
怪我人だぞ。
なのに手加減なしだ。
「ありがとうございます。質問ですが、俺はあと何日間この状態なのでしょうか」
背中側に傷があるせいでうつ伏せ状態なんだ。
「本来なら1ヶ月以上の入院ですが」
1ヶ月!!??
「とある人が回復魔法士を手配してくれたので残り一週間って所ですね。ちなみにベルトはもうすぐ外せます」
手でチョキチョキマーク。
「ほんとですか!?」
「その代わりにちょっとお話を聞きたいって人も来てますよ」
え?
なにその嫌な予感しかない来訪者。
「面会謝絶で」
「拒否します」
拒否された。
「入院期間延びてもいいんですか?」
まさかその人が高額の回復魔法士を手配したのか?
なんという人質作戦。
仕方がない。
「……了解です」
了承したその日の午後、ベルトは外され起き上がれるようになった。
「失礼します」
そして入ってきた二人組の男。
はぁ、先に面会してきたのがターリャじゃなくて知らない人とは…。
しかも見るからに上の人間…。
言うなれば刑事みたいな雰囲気を醸し出している。
そもそもこの世界にそんな職業があるのか知らないが。
男達は部屋の隅に置いてある椅子を持ってきて腰掛けた。
「さて」
年老いた方が話し始める。
「トキヌァリ・ホクジョーさん…だったか?」
「ええ…。……トキで大丈夫ですよ」
「助かる…」
この世界では俺の名前は発音しにくいらしく、トキナリではなく必ずト“ヌァ”ナリになる。
目の前の人も言いにくかったようだ。
こほんと軽く咳払いをして自己紹介を始めた。
「私は警備隊の保安局のゲーセといいます。こっちは部下のルドルフ」
軽く会釈をするルドルフ。
その手にはメモ帳。
紙は高いのに、保安局は給料が良いらしい。
「えー、今回の騒動についてだが」
ああ。
予想した通りだ。
「貴方はいくつかの罪を犯してる。まずは建築物破損。一人でやったというのは信じられんが、ハイランクの冒険者はできるという意見もあるから、まずはその罪。そして、傷害罪。いやぁ、二桁は凄い。そして、商品。今回の場合は奴隷だな。その窃盗…と。この3つ。なにか反論は?」
「いいえ。しかし、言いたいことは山ほどありますね」
そんな俺にゲーセは笑う。
「そうだな。こんだけ罪を犯せば勿論勾留からの、最悪死刑か流刑になるところだが…、まぁ、だが細かく紐解いていくと罪は軽くなっていく。まずは窃盗だが、これについては『この獣人は君が所有していたもので、取り戻した。』という感じにだ。どうだ?所有していたんだろ?」
すぅ、と怒りがこみ上げてくるが、ここの国は獣人を物として考えてる。
仕方ないと片付けるには腑に落ちないが、今回はこうやって弁護の証拠を揃えないとターリャと離されてしまう。
「ええ。そうです」
ニヤリと笑ったゲーセは更に続ける。
「ならこれは窃盗には当たらないな。むしろ向こうが窃盗だ。人様のものを盗んだんだから。んで、次に建築物破損の件」
ゲーセがルドルフに手を出す。
するとルドルフは急いで何かの資料を手渡した。
それに目を通して、ゲーセはおやぁ?と言いたげな顔をした。
「ほー?盾職?盾職なのか?」
「はい。それでタンカーをやってます」
「おかしいなぁー、あちらさんの言い分では君はソードマンで、しかも魔法具を使って建物を崩壊させたと言い張っているが。悪いが、魔法具ないし魔導具を改めてさせて貰っても?」
「どうぞ」
宿の人がわざわざ荷物を届けてくれていた。
しかも謝礼も一緒に。
持っている魔導具全てを調べて、わざとらしく首を捻る。
「ふむ。全てあらためたが、見えない風の刃を飛ばせそうなものはひとつもないな。どうだ?ルドルフ」
「そうですね。一般的な冒険者が持っているものばかりです。これでは証言にあるような事はできないでしょう」
「じゃあ見間違いだな!館も老朽化していたようだし、タイミングが重なったんだろう!」
軽く冷や汗だった。
もちろん倒壊させたのは俺。
しかし、もう盾のダメージチャージは使いきっているのでこちらも調べられてもセーフだったが。
「で、最後の傷害罪だが、明らかにお前さんの方が重傷なので不問。これは窃盗と合わせればなんの問題にもならなくなるだろう。っと、こんなもんか。これでお前さんの罪はまるっと綺麗に無くなった」
すげぇなこの人。
一休さんてきなトンチで全て無かったことにしてくれた。
「そうだ」
思い出した事がある。
「捕まっていた子供達の事なんですが…」
「大丈夫だ。みんな身元を特定できた。ただ、君のところのお嬢さんよりも症状が重いから、退院まで時間が掛かるがな」
「そうですか」
「ちなみにこれは独り言だが、人の奴隷は御法度だから、奴らはおもーい刑罰が下されることになる。勿論、それを売買していたのも洗い出している途中だ」
ほう?
だけど、貴族の場合だと揉み消されそうだな。
「ああ、そうだ。君ねぇ、何しているのか知らないけど、魔術協会使って脅してくるの止めなさい」
「は?」
「ではな」
それだけ言うとゲーセは部屋を後にした。
「えと、じゃあ僕もこの辺で…。失礼しました」
続いてルドルフも退場した。
脅しって、なんの事だろう。
「トキーー!!!」
「うおっふ!!?」
ターリャが俺の腹に体当たりしてきた。
塞がったばかりの傷に響く。
お腹に頭をグリグリしながらずっとムフフフフと変な笑い声をあげていた。
頭を撫でながらホッとした。
良かった。
■■■
「ぬううううううっ!!!」
机のもの全てを引っくり返して暴れた。
せっかく大金を払ったのに、少女を手に入れられなかった!!
くそっ!クソクソクソ!!!!
「ふーーーーっ!!!あの異国人めぇぇぇぇっ!!!!」
衝動的に投げたナイフが、写真の中の黒塗りの男の頭に当たる。
「諦めん!!諦めんぞおお!!!貴様を殺して彼女を手に入れてみせる!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます