第34話『さらばシーラ街』

 ようやく退院した。


 回復魔法士は物凄かった。

 背中に手を当てた瞬間に、こう、ぐわあああって全細胞が覚醒!!!みたいに熱をもって、気がついた時には傷が塞がっていた。

 その対価としてすごく痒い。

 仕方がないのでカインケイとかいう感覚を一時的に消す軟膏を塗って耐えているんだが、違和感…。


 まぁ、とにかく晴れて退院したのだ。


 早速ターリャとすっかり顔馴染みになってしまったオブザーバーメンバーが迎えに来た。

 俺の側まで来ると、ターリャがみんなに向かってお辞儀、


「ウージョンカおねーちゃん、お世話になりました!」

「いえいえ、こちらこそ。またパジャマパーティーやりましょうね」

「次はエリナの家でですからね!」


 ターリャは俺が退院するまでウージョンカ家にお世話になっていて、すっかり仲良くなってしまった。

 しかも知らない服も数着増えていて、大変申し訳ないので、賃貸やら色々支払おうとしたら猛烈に拒否された。

 その代わり定期的に文通させろとの交換条件で解決したけど。

 女子の思考回路はよくわからん。


 それに旅しているのにどうやって文通するんだと思ったら、オズワットが凄い魔導具を、お下がりだが、と譲ってくれた。

 名称がライバト便。

 これをギルドのとある一角にある機械に挿すと、すぐに受信&印刷。もしくは読み取り&送信をしてくれるらしい。

 見た目はUSBメモリ。

 職員に言えば案内してくれるらしい。


 この世界は思ったよりも便利なものがたくさんだった。


(やっぱり貧乏は敵だな)


 本当にそう思う。


「トキさーん?勿論僕らとも文通してくださいよー?あといつでも入隊の返事待ってますからねー!」

「俺も待ってますよ!」

「……ははは。考えておきます」


 女子の真似してなのかテンションの高いアウレロとオズワットにゆさゆさ揺らされ、返事を返す。


 ちなみに入院中、お見舞いで初対面になったカラカジョさん(松葉杖ついてたけど)とはすでに仲良くなった。

 盾職の仲間は少ないから貴重である。

 今はカラカジョさんはギプス取りに行っていて不在だけど、(余談だが、ここの世界ではギプスをノコギリで切るらしい)なかなかふくよかで包容力のある人であった。


 俺もいつかは包容力のある人間になりたいものだ。


 その日の夜、退院祝いとお見送り会が開かれ、久しぶりにお酒を飲んだ。

 あまりにも楽しくて、こんなに楽しいのなら事がすんだらここに戻ってきても良いなと思ったほどだ。


「うえええ……」


 二日酔いさえなかったらな。






 二日後。

 さよならの挨拶もほどほどに、シーラ街を出た。

 馬で。


「んふー!馬に乗れるようになって良かったね!」

「そうだな…」


 あの一件で、俺は完全に乗馬をマスターしたらしい。

 2人乗りも全然大丈夫だ。


「それにしてもいつ馬なんか買ってたの??しかもこんなに懐いて」

「……懐かれるような覚えはしてないんだが…」


 カッポカッポとのんきに俺達を乗せて歩いているこの馬は、館から逃げ出した馬の一頭だ。

 そう、ターリャを追い掛けるために無理やり走らせ、馬車に乗り移る為に背中を思い切り蹴飛ばした馬だ。

 なんでかその後普通に俺に着いてきて、入院中も病院周辺をうろついていた為、俺の馬だと勘違いされた。


(この馬、なんで着いてきたんだろうな)


 そのまま逃げれば良かったのに、物好きな馬もいたものだ。


「綺麗な模様だねー」


 ターリャもこの馬のことをすっかり気に入っているみたいだし、これで足が痛くなる心配も無いだろう。

 問題は食糧だが。


(なんとかなるか!)


 なんとかするしかない。


「お名前なににする?」

「名前?」


 名前か。

 なまえー……。


「…ターリャが付けて良いぞ」


 せっかくなのでターリャに振った。

 特に思い浮かばなかったからだ。


「いいの!?」

「ああ」


 凄く嬉しそうだ。

 一生懸命んーと、んーと、と考え込んだターリャは丸々1日考え込み。

 翌日の朝。


「豆大福!!!」


 と、黒混じりの白色と言う理由だけでとんでもない名前がつけられた。




 審議の結果、食べ物の名前は回避され、無難に『ルシー』になった。

 あぶねぇ、もう少しで名前呼ぶ度にお腹がすく名前にされるところだった。






 ルシーという足ができたお陰で旅は順調だ。


 たまにクエスト受けてお金を稼ぎながら聖域があるらしい大陸中央方面へ進んでいく。

 ターリャもめきめきと成長し、今では小型の妖魔ならなんとか捕獲できるくらいにまでになった。

 弟子の成長を感じられるのは嬉しいことだ。


 それにしてもなんでか道すがら妖魔の襲撃が多い気がするが、今まであんまり街の外の事を詳しくは知らないからこんなものなのかも知れない。

 それとも出やすい土地柄か?


 どちらにしてもちょっと安全とは言えない道中で、俺達は奇妙なものを発見してしまった。


 馬を止めて、前方のものを少し離れた所から様子を伺う。


 全く動かない。

 けれど腐っている感じもしない。

 生きてはいると思う。


「ねぇ、トキ…。確かめた方が良いんじゃない?」


 恐る恐ると言う感じでターリャが提案をしてきた。


「……うーん…」


 奇妙なものとは、途中で行き倒れているらしき風体のオッサンであった。

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