第13話『次の行き先が決まった』

 遡ること、トキが町を脱出して三日後の事。



「ねぇー、セドナさぁん!そろそろ教えてくださいよぉー!」

「あ?」


 ヤアドがひいひい言いながらやって来た。

 間抜けな姿だ。反吐が出る。


 ここ数日セドナは苛立っていた。

 何故なら全くというほどトキの足取りを掴めないからだ。

 門を通った様子もない。

 誰か見たという情報もない。

 なのに、お金を積んで道を封鎖したのにも関わらず捕まえることが出来なかった。


 そんなセドナはイライラが頂点に達していて、仲間からの『疲れたもういやだ』コールにも、やる気のないヤアドの声にも非常に苛立っていた。


『あ?』という不機嫌マックスのセドナの返答だったけど、ヤアドはそれに気付かずに更に続ける。


「なんで抜けた奴にそこまで執着するんですかぁー?聞く限りだとソイツろくな金だってないっていうじゃないですかぁー!」


 思わず舌打ちが飛び出した。

 こいつは何も分かってない。

 俺が探しているのはソイツじゃない。

 ソイツの首に下がっているものだ。


「あいつがロングスタのタグ持ってんだよ。そいつはコレクターに稀少ものの魔石並みの高値で売れんだよ!くそっ!」


 完全に見落としていた。

 なんであれの存在を忘れていたのか。

 あのノロマが気付く前に取り上げてやらねえと、あの化け物は付け上がりやがるんだ。


「ロ…っ!?」


 ひゅっとヤアドの喉が鳴る。


「ロングスタのタグ!!??あの、一割しか生存者がいなかったって言うヤバい戦場の特定タグ!!??なんであんな汚い野郎が持って──、はっ!あいつ盗んだんですか!」


 勘違いしているヤアドに訂正してやるのもめんどくせえが、このままギャーギャーうるさいのは、もっと面倒くさい。


 大きくため息を吐き、説明してやることにした。


「あの野郎は、その生き残りだ…。運だけは良い奴だよな、戦場で逃げ回って仲間を盾にして生き延びたんだぜ?だからお前の実力じゃないんだって、勘違いして調子に乗るのを、俺様が止めてやらねぇとな…」


 話しているうちにイライラが収まってきた。

 そうだ、ついでにこれも教えてやろう。


「あとな、あいつはこの国の人間じゃない。隣国の人間でもないんだ。ニホンとかいう聞いたこともない国の生まれなんだってさ。聞いたことあるか?ニホンって国」

「いや、ないすねぇ。なんだか言いにくいし、どんな未開な小国です?」


 ヤアドが含み笑いをしている。

 はは、気分が良くなってきた。

 やっぱりアイツを虐めるのは楽しいな。


「ああ!きっと獣人どもの国同様の野蛮で未開な国なんだろうさ!だから奴は人間扱いなんかしなくてもいいぜ?殴っても逆らわないし、良いサンドバッグだと思えば良い」

「俺も殴っていいんですかぁ?」

「おうよ!なんならその盾で殴ってもいいぞ!あいつは抵抗しないからな!」

「はははは!楽しみになってきました!」


 よし!気分も上がってきた。


「ふう…。まぁ、奴はそのうち見つけ出すとして。みんなに言っとけ!明日は久しぶりにダンジョンに潜るぞってな!」







 □□□




「おかしい。確かにここら辺だった気がするのに…」

「ん?」


 夢の記憶を便りに道を辿っているけれど、いつまで歩いても目的の場所に辿り着けない。

 やっぱり夢だったのか?

 でも、それなら今持っているこの盾の説明がつかない。


「なにが?何か探してるの?」

「…夢、だと思うんだけど。この盾があった滝を探しているんだ」

「その滝なら此処にはないよ?」

「え?」


 足を止めた。


「あれはねぇ、聖域の一部なんだって。行こうと思っても行けない所なの。ターリャ、トキに出会うちょっと前の事をあんまり覚えてないんだけど、少し、『言葉』と『意味』だけ思い出したよ」

「聖域…」


 ゴポリと耳に甦る青い世界。

 もしかして、あの水中のもその聖域というやつなのか?

 白い影の言葉を思い出す。


 おそらく、この盾が俺の欲していたモノなのだろう。

 そうか。

 そんなに俺は盾が気に入っていたのか。


 体にしっかりと馴染む盾を撫でる。

 光は消えているけど、綺麗な盾だ。


「なんで、俺にこの盾をくれたんだろうな」

「んふ」


 ん?なんでターリャが笑いそうになっているんだ?


「どうした?」

「なんでもなーい」


 変なターリャだな。

 まぁいいか。


「町に戻ろっか」

「うん」





 ザクザクと先頭を歩くターリャが地面を踏む度に音が鳴る。


「ねぇ、トキ。ターリャね、行かないといけないところがあるんだけど、一緒に着いてきてくれる?」

「行きたいところではなく、行かないといけないところ?」


 言い方が変だけど。


「どこだ?」


 ターリャが振り返り、にへらと笑う。


「神域」

「神域??」

「うん。なんでか分からないけど、そこに行かないといけない気がする」


 そうか。

 昨日の事といい、近頃変なことが起こりすぎだ。


「場所はどこなんだ?」


 ターリャはキョロキョロと周りを見て、とある方向を指差した。


「んー、あっち??」

「南か」


(ハズル町とは若干位置が違うな)


 戻るんだったら全力で拒絶していたところだ。

 ターリャの指す方向だと、どこ方面になるんだろう。

 しばらく遠出をして無いから、ターリャがどこを指しているのかさっぱりだ。

 後で地図を見ないとな。


「ま、俺はターリャが行きたいところならどこまでも付いていくさ」


 本当はここで施設なり、里親なんかを探そうと思ってたんだけど。


(ターリャの気が済むまで好きなことをやらせてからってのもアリだな)


 今までそんな自由も無かっただろう。

 存分に楽しんでもらいたい。


 そういえば。

 この剣はなんなんだ?


「……ふっ!」


 柄を握って引き抜こうとしてもびくともしない。

 飾り??

 鎖が巻き付いているせいってわけでも無さそうだし。


「まぁいいか。ちゃんとした盾を手に入れただけでだいぶ違う」


 フライパンよりも効率よく稼げるだろう。


「ターリャ、これからは美味しいものがたくさん食べられるからな」

「本当!?楽しみ!」








 ルンルン気分で街に戻る途中。


「………、そうか、いる可能性はあったな…」


 グレイウルフの群れに囲まれてしまった。


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