第14話『狼とワルツ』

『ルルルルルル…』

『ヴヴゥゥゥ…』


 ジリジリとグレイウルフの群れが迫ってくる。

 ん?

 いやまて、あれグレイウルフか?

 いや、違う。

 あれはシルバーウルフだ。

 背中の色が灰色の中に水色が混じっている。

 確か、シルバーウルフから稀にグレイウルフが産まれる事があるって聞いたことあるな。


 シルバーウルフはグレイウルフよりも力が強くて頑丈だ。

 特に牙は内側がノコギリ状になっていて、咬まれたところをズタズタに切り裂いて感染症を引き起こす。

 とても危険な奴だけど、動き自体はグレイウルフよりも遅い。


「ターリャ」

「……、!」


 固まっていたターリャがこちらを向く。


「木に登れ」

「で、でもグレイウルフは木の上にも跳んでくるって」

「ああ。だけど、今回はシルバーウルフだ。あいつらは体が重くて高く跳べない。だから木に登っていれば安全だ」


 それに。


「それに今回は、こいつ大盾があるからな」


 さっきからこの盾の特性を調べていた。

 するとどうだろう。

 こんなにも戦いやすい盾は無いんじゃないか?


 ターリャが頷く。


「わかった!怪我しないでね!」


 ターリャは木登りの要領が分かってきたのか、近くの木にするすると登り始めた。

 よし、あの高さまで登れば安心だ。


「さぁ、掛かってこい!!」


 意識を俺だけに向けさせるように、殺気を込めて挑発するとシルバーウルフ達が襲い掛かってきた。


「ふっ!」

『グルアッ』

『ガルルル』


 まずは小手調べと体当たりしてきた三頭を受け流す。

 さすがはシルバーウルフ。

 グレイウルフなんかとは比べ物にならない程の突進力だ。

 だけど、受け流し特化の俺には関係ない。


 うん。

 当たり前だけどフライパンよりも戦いやすい。

 大きさが以前のものよりも大型だから不安はあったが、全然問題なく振り回せる。

 しかもこの盾の重さがちょうど良い。

 よし、この盾での立ち回りも段々分かってきた。

 なら次はさっき見つけたこの機能を試してみよう。


 ガチンと盾の内部が鳴る。


「オラァアア!!!」


 グルンと盾が回る。

 盾にのし掛かろうとしていたシルバーウルフが盾の上で転がり、吹っ飛んでいった。


「おおっ!これは面白い!」


 段々楽しくなってきた。

 まるでダンスをするかのようにシルバーウルフの攻撃を流していく。

 知らなかったなぁ、抑圧された制限がないとこんなにも楽しいのか。

 でもそろそろ遊んでないでちゃんと倒し──


(ん?)


 盾のある部分が光っている。

 まるでバッテリーのような形状のもので、ゆっくりだけど光がチャージされていっていた。


 なんだこれ。

 こんなのあったか?


 観察してみると、シルバーウルフに攻撃される度に少しずつチャージされていっていた。

 そして、すべてのチャージが完了したときガチンと何かの音が聞こえた。


「剣が!?」


 剣を固定していたロックが開いていた。


「トキ!後ろ!!」

「!!」


 ターリャの焦った声で振り返ると、角持ちのシルバーウルフが飛びかかってきていた。

 通常のシルバーウルフの二倍の体長。

 魔力を纏った体は、まさにシルバーウルフのボスそのもので、魔法こそ威力が弱いものの、不意を付かれると人間は一撃で殺られる。

 口に風の斬撃を飛ばす魔法が生成されている。

 俺にのし掛かり動きを止めてから放つつもりだ。


「抜いて!!トキ!!!」

「ッッ!!」


 無意識に盾の柄を握り、振り返り様にがら空きのシルバーウルフの胴へと、その剣を振り抜いた。


 ズドンと、剣から衝撃波が放たれ飛んだ。


「へ?」


 角持ちのシルバーウルフの体が真っ二つになってぶっ飛び、その周囲にいたシルバーウルフと、なんでか俺の後ろにいるシルバーウルフにもその斬撃が被弾してあっという間に全滅した。


『ギャインギャイン!』


 一匹だけ撃ち漏らしのシルバーウルフが尻尾を巻いて逃げていった。


「……な、なんだこの剣」


 斬撃を飛ばした?

 驚きつつ、握る剣を見ると、唖然とした。


 なにこの鉄の棒。


 先端は細いけど鉄の棒。

 レイピアなんて洒落たものじゃない。

 鉄の棒だ。

 こんなのがさっきの攻撃をしたのなんて信じられない。


 そのまま無言で盾に納めた。

 納めると、再び柄が施錠された。

 なんだこれ。


「やったね!また石取れるよ!」

「…そうだな」


 使っているうちに分かるようになるだろう。


 まずは魔石と、ボスのシルバーウルフから戦利品である角を回収するために、吹っ飛んでいった上半身を探すことにした。








 素材屋に角を持っていったらグンジに『大馬鹿ものめ!』と怒られた。


「そいつは近頃この辺を騒がしている高危険ランクの付いた妖魔だ!俺んところに持ってくんな!ギルドに持っていけ!!」

「そんな怒らなくても」


 仕方がないので、グンジに言われた通りにギルドに持っていく。

 俺まだ申請してないのに。

 良いのかな、こんなの持ってギルド入っても。

 といっても、クエスト完了の素材(一般の素材屋が受け付けない危険な素材含め)を鑑定する場所はギルド内にしかない。


 資格の無いまま持っていったところで、換金してくれるのか?


「うわっ!」

「おい、あれって…」


 ザワザワと周りが騒いでいる。

 こんなのは慣れてるけど、ターリャは大丈夫かな。

 やっぱり先に宿屋に連れていくべきだったか。


 受付の方へ歩いていくと、前のとは違う受付の人が大慌てしていた。


「すみません。資格持っていないのですが、これを換金できますか?」

「おおおおおおおお待ちください!ただいま責任者を呼んでまいります!!!」

「え?」


 なんで?





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