第12話『夢か現か、大盾か』
呼んでる?誰が?
「夢じゃないのか?」
耳を済ませても声なんか聞こえない。
きっとターリャは夢を現実と勘違いしたんだろうと、寝かしつけようとするけど、ターリャは『違う違う』と首を横に振った。
「違う!トキを呼んでるの!」
「……俺を?」
なんで俺なんかを呼ぶんだ?
は!まさかセドナと愉快な仲間どもか!
起き上がると、ターリャに違和感を覚える。
なんだ?ターリャの鱗から光が出ている。
脳裏を掠めた白い影。
もしかして。
「…ターリャ、どっから呼んでる?」
「こっち!」
ターリャにしてはやけに強い力で引かれ、その事に気付かずに付いていく。
なんだか体がフワフワする。
水の中で走っているような不思議な感覚だ。
なんだろう、すごく楽しい。
それほども走ってない所で、森の奥から涼しい風が誘うように吹いてきている。
「この匂い、川か?」
森を抜けると、そこには大きな滝と鳥居のような建造物が。
天上にある月も相まって神秘的な光景に声を失っていると、ターリャがくいっと袖を引っ張って『あそこだよ』と、滝を指差した。
「滝が光っている…」
ぼう…、と、青白い光が滝の中腹辺りから漏れだしていて、それに合わせるかのようにターリャの鱗の光も強くなった。
── こちら へ
「!」
声が聞こえた。
「行こ、トキ」
「あ、ああ」
ターリャに引かれるままに川の方へと歩いていく。
鳥居をくぐり、はっと気が付いた。
このままだと川に落ちる。
「ターリャ、待──」
ターリャの足が水へと差し出され、沈むこと無く次の足が出た。
は?
青い光がターリャを沈まないようにしているのか、まるで足跡のように青い光が水面に残っている。
そして俺の足も、沈むこと無く水面にしっかりと着水し、歩けた。
一歩、二歩、三歩となんの問題もなく川を小走りで駆けていく。
ターリャに至ってはスキップするかのように足取りが軽い。
滝の飛沫が掛かるほどに近付けば、滝の水がすだれのようにバラけて開く。
そこでようやく、ああ夢なのかと納得した。
でなければ、こんな不可思議なことは起こらないだろう。
なら、何も驚くことはない。
この光景をただ素直に綺麗だなぁと眺めていよう。
そんな感じで滝が完全に開くのを見ていたら、奥の方で光っていたものが
「盾だ」
そこには盾があった。
1メートルほどの、大盾と呼ばれる種類の盾だ。
形は独特で、まるで亀甲を磨き上げたような感じで、その全体から淡く光を放っている。
その盾の上には柄が、何故か鎖が巻き付いているが、それが岩の上に鎮座していた。
何故か見覚えのあるそれに触れる。
「!?」
触れたところから強く発光し、視界を眩ませる。
── 貴方を待っておりました 玄武の適正者よ
── 護り、導きなさい 最期まで
聞き慣れてきた声がそう言い、視界が暗転した。
チュンチュンと小鳥の声で目が覚めた。
太陽はとっくに昇っていて、森の中なのにとても穏やかな朝だった。
「……夢?」
思わず呟いた。
でなければここで転がっているのはおかしい。
焚き火はとっくに消えて冷たくなっている。
そうだよなぁ、夢だよなぁ。
じゃなかったら火の始末をしないままに夜営地を離れるなんて普通はしない。
しかも荷物も全部起きっぱなしだった気がする。
素人じゃないんだから、そんなことは絶対にしない。
本当、それこそ妖魔の群れに襲われて慌てて逃げる時くらいにしかしない。
ちゃんと隣でターリャがスヨスヨと寝ているのも確認した。
鱗も光ってない。
いつものターリャだ。
「ふあぁ……、さてといい加減に起きるか」
大きく伸びをして起き上がる。
軽く朝食でも食べる準備でもするか。
枕変わりにしていた鞄から干し肉を取り出そうとして、視界の端に見慣れないものが。
「……」
ゆっくり顔を上げる。
すぐ頭上の木の根本に、夢の中で出会った大盾が何食わぬ顔で鎮座していた。
「………………え???」
夢じゃ、なかった???
□□□
おかしい、
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。
こんなはずじゃなかったのに!!!
大きな影がこちらを向いて、口から煙を立ち上らせている。
「セドナ!無理だ!いったん帰ろう!!」
エリカが泣きそうな声で叫んでいる。
「……ふざけるな、こんな敵、前までなら……」
全然余裕だったのに…。
影が吐き出した炎の塊でヤアドが吹っ飛ばされた。
「この糞タンカー!しっかりと踏ん張れよウスノロ!!!
──!?」
なんでこうなってんだ!!!!!
「「「うわあああああああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」」
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