第7話 あたい賢者になる!
「……いい人達だったな」
お師匠様が、村を出て家への帰路の途中でそう呟く。
「そうですね! あたい、ジャンとお友達になりたいです! というかなってます!」
「そうか……」
お師匠様が立ち止まってあたいの目を見て言った。
「いいか。あの人たちはいい人だったけど、あまり人間と関わるんじゃないぞ」
あたいの頭の中が一瞬真っ白になる。
人間と……関わっちゃだめ?
「どういうこと?」
素直に首を四五度傾けて聞く。だって意味がわからないもの。
今までだって何回かは人間と関わってきたし、お師匠様はいつもまんざらでもなさそうな表情で人間たちを助けてる。なのに……。ここまでの矛盾があたいの頭の中でぐるぐると回る。
お師匠様が遠くの星空に目をやりながら答える。
「……人間というものは、未知のものに敏感なんだ。だから、畏怖して、私たちが標的にされることだってある」
……怖がられる? 標的? 狙われるってこと?
「なんで? あたいたち、何もしてないじゃない」
「何もしてないように見えるのが一番怖いんだよ」
それだけ言って、お師匠様がスタスタと歩き始める。でも、やっぱりあたいの頭の中は疑問でいっぱい。
「お師匠様、それは、人間に薬をあげるとかの良いことも?」
お師匠様は、疫病や厄災、作物の病気の話を聞くと、薬を作ってたのを覚えてる。
お師匠様はその足を止めずに答えた。
「……私たちが生きていくのに、人間の力は必要だ。いくら賢者でも、野菜の栽培は苦手だからな」
そういえば、この前お師匠様の畑が全滅してた……。料理もあたいよりもできないし、薄々わかってたけどお師匠様も完璧じゃないのね。
と、あたいの頭の中でまた疑問が。
「それは、“魔法使い”とも関係があるの?」
その一言に、お師匠様が若干足の速度を緩める。が、それもつかの間、また早足になる。
「……その話は、あまりしたくないな」
「……ごめんなさい」
魔法使いの話は嫌なんだ。……どうしてなんだろうって思っても、お師匠様の雰囲気が質問にさせてくれない。
「じゃあ」とあたいはかわりに口を開く。
どうしても、聞きたかったから。
「じゃあ、なんで今日はジャンの家に行ったの?」
ピタリ、とお師匠様の歩みが止まり、あたいは思いっきりお師匠様にぶつかる。
そして、またいらないことを言ったかとビクビクしながらお師匠様の顔を見るとーー
「……なんでだろうな」
少し、微笑んでいた。
「ーーそういえば、ヒヨ。明日はお前の新しい杖を作ろうと思うが、まさかどこかに素材を忘れてきていたりしていないだろうな?」
そう話題を逸らすお師匠様の思惑に気づかないまま、あたいは「はい!」と返事をして、鞄の中からその木の芯を取り出――
「あれ?! ない!」
あ、あれ? あたいどこで落としてきたんだろう……。必死にガサゴソとリュックの中を漁るも、ひっくり返すも、あたいが頑張って倒したのに……。
そうしょんぼりするあたいのどこが面白かったのか、お師匠様が笑う。
「はっはっは! 全く! また明日も森に入らなければな!」
お師匠様のゴツゴツとした指が、あたいの髪をくしゃくしゃと撫でる。
何か言ってやろうかとあたいはお師匠様の顔を見てーー
「お前を弟子にとってよかった」
その表情に、そんな考えは吹き飛んでしまった。
「ーーヒヨ」
「はい!」
「賢者になりたいか?」
「なりたいです!」
「なぜだ?」
……なぜ?
あたいは、初めての質問に首をおおいに傾げて考える。
「……お師匠様みたいに」
「ん?」
「お師匠様みたいに、かっこよくなりたいから!」
あたいの答えに、お師匠様が驚いた顔をする。
そして、あたいは星の煌めく蒼い夜空に向けて叫ぶ。
「あたい……賢者になるっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます