第4話 ジャンのおじいちゃん

 あたいたちの森の外から少し行くと、小さな町がある。教会と市役所を中心とした、一般的な町。その町の外れにジャンのおじいちゃんの家があった。


 一見してぼろく、あたいたちの家よりも寂れているので少しキョロキョロと辺りを見回したのは秘密よ。


 ジャンが勢いよくボロい木の扉を引く。


「じっちゃん! ただいまー! お客さん連れてきたよー! 上がってくれ!」


 !マークの多い声でジャンに言われ、あたいたちは玄関に入る。やっぱり家の中もボロい……。


「いいぃらっしゃぁいませえぇぇぇぇぇ!」

「ひゃぁっ?!」


 なになに?! も、森オオカミの雄叫びみたいな声が……。


「だ、大丈夫なのジャン?!」

「ん、ああ、これじっちゃんの声だから」

「そうじゃああぁぁぁ!」

「うひゃっ!」


 そんなおっきい声で応えながら出てこられてもビックリするわ!


 ジャンのおじいちゃんは、袖のないシャツと半ズボンに身を包んでいた。頭のてっぺんにたんぽぽの綿みたいに白髪が生えてる。ちなみに服はどっちともヨレヨレよ。


 本能からかお師匠様の後ろに隠れる。すると、お師匠様はあたいの頭に手を置いた。


「私の弟子の無礼をお許しください。私たちは賢者。私がレーザでこちらが」

「ヒヨです!」


 あたいはぴょっこりと頭を出して名乗る。


「ご縁があってそちらのジャンにらお招きしていただきました」

「ほう! 賢者様か……これまた、可愛らしい弟子さんもいらっしゃる」


 若干抑え目の声で、ジャンのおじいちゃんがじっとあたいたちを見る。


 そして、にっかりと笑って、


「ようこそいらしてくださった。毎度村の疫病の度お世話になっておる薬剤師がおると思えば、よもや賢者様でございましたか」

「……まあ、そうだな」

「ジャンの右腕を見るに、お助け頂いたのでしょう。茶はありませんが、どうぞ、菓子でも」

「ああ、それでしたら」


 お師匠様がガサゴソとリュックの中を漁り、ひとつの葉っぱの入った袋を取り出した。


「茶葉は持ち歩いています。よければ淹れましょう」

「おお、ありがたい!」


 ジャンのおじいちゃんはそうしてまた笑った。お師匠様、茶葉なんて持ち歩いてるのね。こういう時に役立つのかしら。


 そしてジャンのおじいちゃんはそのまま上機嫌に去っていくけど……。ジャンのおじいちゃんじゃちょっと長いわ。


「じゃ、ジャンのおじいちゃん!」


 あたいは呼び止める。するとジャンのおじいちゃんはこちらを振り返った。


「あの、なんていう名前ですか……?」

「おお、失敬! 忘れておったわい。この歳になると名乗るのを忘れてしまう」


 ジャンのおじいちゃんはしっかりとこっちを向いた。


「わしのの名はルトンと言います。どうぞ、仲良くしてやってください」


ーー  ーー ーー ーー ーー


「ジャンのおじいちゃん……ルトンさんって、凄い元気ね」


 あたいは先にルトンさんと一緒に歩くお師匠様の後ろでジャンに話しかける。


「ああ。なんでも、つい最近まで傭兵をやってたんだぜ! すげぇよなぁ」


 心からの感嘆の声を漏らして、ジャンが羨望の眼差しでルトンさんの背中を見る。


 その気持ち、わかる。あたいもいつもお師匠様に助けられる度にお師匠様カッコイイ! って思うもの。きっと一緒ね。


 居間に着いて、お師匠様はお茶を沸かし始めて、ルトンさんはお菓子を出した。


 出てきたのは家に見合わないオシャレなクッキー。


「うわぁ、美味しそう!」


 見た目も赤のジャムとかブドウのジャムとかで綺麗だし、可愛い!


「貰いもんじゃよ。仕事柄、の」


 ルトンさんがそう言ってジャンとテーブルを挟んで向かい合わせになるように椅子に腰を下ろした。その向こうでお師匠様が紅茶を持ってくるのが見えた。


 お師匠様が紅茶を置いて、ルトンさんが楽しそうに口を開く。


「よければ魔法というものを見せてもらいたいわい。近頃はロマンが足りんくての」

「ロマン……?」

「男のロマンじゃ!」


 首を傾げるあたいにルトンさんが親指をぐっと立てながら言う。うーん、男のなら、女なのあたいにはわからないわね。


「わしも賢者を目指せばよかったの!」

「じっちゃんは充分強いからいいよ……」


 突飛なことを言うルトンさんを、ジャンが呆れた目で見る。


「それでは、お見せしましょうか」

「おお、よろしくお願いします!」

「まずはですねーー」


 その時。


「ーールトンさん! ルトンさーん!」


 玄関から焦ったような大声がボロ屋に響いた。


 ルトンさんは動かずに声を張り上げる。


「なんじゃああぁぁぁ!」

「お客さんがいるとこごめんよ! ーー蜂と狼の大軍だ!」

「いぃまぁいくぞおおぉぉい!」


 ルトンさんはこれまでに見せなかった俊敏さですぐさま席を立って部屋に行き、再び顔を見せた時はすでに甲冑を見にまとい、あたいの身の丈ーー百五十ぐらいーーほどの大剣を持って現れた。


 ハッキリ言って、別人かと思っちゃった。


「そいじゃ、賢者様、少し席を外します」

「お待ちください」


 お師匠様も立ち上がる。


「私共も賢者であります。ーー力を貸しましょう」

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