第2話 トレントと戦う!

「きゃああああああ!」


 あたい走る! だって、後ろからすっごい勢いで木の化け物が襲ってきてるから!


「お師匠様お師匠様お師匠様ー!」

「これも修行だ」

「便利な言葉ねお師匠様!?!?」


 これじゃお師匠様からの助けの望みは薄い。こうなったら……。あたいは振り返りながら杖を握る。


「ファイ」

「火で燃やしては素材は得られないぞ」

「うわああああんウィンドッ! ウィンドッ! ウィンドッ!」


 そんなの聞いてない! 教わったかも知れないけれど覚えてない! あたいはやけくそに風魔法を連射する。けれど、細かい枝を切り落とすだけで全然ダメージを与えられてない!


「きゃっ?!」


 無理に腕みたいな枝を伸ばしてこっちを攻撃してきたのを間一髪のところで避ける。危なかった! あと体一個分右だったらあたいはぺちゃんこになってたところ。でも、攻撃をしたからトレントとの距離は空いた。


 今のうちにあたいも考える。


 あたいの得意魔法は水魔法だけれど、木の敵に水魔法なんて、あんまり意味ないし……。


「でも、考えてる暇なんてない! ウォータースプラッシュ!」


 体ごと振り返って脚を踏み込み、杖を突き出してトレントに向ける。あたいの杖の先に青い魔方陣が浮かんで、丸太ぐらいの太さの水流がトレントにぶつかる。なんか全然効いてない気がする?!


 あたいの中から魔力が失われていくのがわかるけれど、ひとまずはこれで動きを封じたい!


 それからしばらく魔法を放ち続けていると、ついにトレントは勢いの強い水の流れに耐えかねて地面に倒れた。今よ! あたいは杖を振り下ろす。


「アースカッター!」


 土がぐねりと動いて斧の形をとり、トレントの幹と根の境ぐらいのところへたたき込まれる! さすがに一回じゃ切れないから、何度も振り下ろすと、根が寸断された。


 根はトレントの心臓そのもの! 木の化け物は枝を空に向けて伸ばし、そのまま動かなくなった。


「や、やった!」


 あたいは嬉しくてぴょんぴょんと飛び跳ねる。すると、あたいの魔法でぬかるんだ地面に足を取られて転んだ。折角喜んでたのに!


 ううぅ、とやりきれない気持ちを顔に表していると、お師匠様がやってきた。


「よくやったな。賢くは無いがシンプルな倒し方だった」

「賢く無かった?!」


 そ、そう……。まあ確かにあたいも適当に感じるがままに戦ってたのは否めないけれど……。そう言われると反応に困る。


 やっぱり微妙な表情でいると、お師匠様が頭をぽんぽんと撫でる。あたいのツインテールにした青い髪が揺れた。


「まあ、何はともあれよくやった。今日はこれで素材を回収して、戻って杖でも作ろう」

「はい!」


 まあ何はともあれやりきった。よくやったね、あたい! 泥の中から立ち上がって、うきうきしながらあたいはリュックの中のナイフを取り出して、トレントの幹の中心にある独立した素材を取り出す。なぜか幹の中から枝みたいなものが出てくるの。不思議ね。


 この枝みたいな何かは魔力を伝える力を持っていて、あたいたち賢者の魔法の媒介になる。もちろんこれ以外にもいろいろ素材はあるけれど、これが初心者向けね。いつかはお師匠様の使ってる神鳥の羽から作ったような杖が欲しかったり。


 取り出したそれをリュックにしまって、あたいは立ち上がる。


「無事回収しました!」

「よし、それでは――」


「帰ろう」とお師匠様が言いかけたその瞬間、


「助けてくれええええ!」


 森の奥から少年の悲鳴。


 あたいとお師匠様は顔を見合わせる。


「……お師匠様」


 あたいは不安げにお師匠様の名を呼ぶ。あたいには、お師匠様の言葉に従う他ない。


 これまでになかったイレギュラーに、お師匠様は――


「――行こう」

「はいっ!」


 そう言って駆け出したお師匠様の後ろをついて、あたいも駆け出す。お師匠様は脚が速くて、あたいはついていくので精一杯だけれど、近いから大丈夫なはず!


「……人間と触れあうのは、仕方がないことだが、しかし……」


 走っている途中で、お師匠様のそんな呟きが聞こえたような、聞こえなかったような気がした。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る