あたい賢者になるっ!

今野 春

1章 あたいヒヨっ子賢者!

第1話 あたい賢者の弟子!

 ……あれ? あたい、なんでこんなところにいるんだっけ……。


 ……なんでおうちのなかはこんなにあつくてあかるいの? あたいのおにんぎょうさんはどこ?


 なんでぱぱとままはうごかないの? あたいとあそんでよ。



 なんでいきがくるしいの?



 わからない。なにもわからないよ……。



 ……あなたはだあれ?


「すまない……! 本当にすまない……! アリア、カルド……!」


 ……なんでないてるの?



 ――へんなの。 




ーー ーー ーー ーー ーー




 森の奥にぽつんと立つさびれた一軒家。その中で今日も今日とて料理をしているあたいの名前はヒヨ! 青い髪が綺麗ってよく言われる十一歳よ!


「あっ! お師匠様! おはよーございます!」

「この時間帯だと“こんにちは”ではないか? 俺も寝過ぎたな……。おはよう」


 こっちはあたいのお師匠様のレーザ師匠。背が高いし見た目は怖いけど良い人! 今日も茶髪の前髪の下からオオカミみたいな目が覗いてる。怒られる時にあの目で見られるとすっごい怖いわ!


 お師匠様は魔法を使える賢者様。そしてあたいはお師匠様の、賢者の弟子よ。お師匠様はあたいのパパとママのお友達で、パパとママが王都で仕事だからって、あたいが生まれてからずっと面倒を見てくれているの。


 そういえば……。


「ねえねえ、お師匠様。あたい今日変な夢を見たの」

「そうか。どんな夢だ?」


 えーっと、確か……。


「なんか、お家が燃えてて、パパとママは動かなくって……お師匠様がいた!」


 あたいの記憶力じゃここまでが限界! もう思い出せない。


 それだけあたいが言うと、お師匠様はどうしてか暗いお顔をした。


「そうか……。ただの夢だ。忘れてしまいなさい」

「うん、そうする!」


 怖い夢なんて、覚えていたくないものね。あたいはうなずいてからすぐに料理に取りかかる。その時にはもうきれいさっぱりわすれてた。さすがあたい!


 ああ、いつかパパとママに会えるかな。


 お師匠様が顔を洗いに洗面所に行っている間に、あたいは朝食の目玉焼きとパン、それとサラダを盛り付けてドレッシングもだして朝食……じゃなくて昼食の準備は完了!


 一人であたいには高い椅子に座って脚をパタパタさせてさせてたらすぐにお師匠様が戻ってきた。


「いつもありがとうな、ヒヨ」

「いえいえ! それじゃ、いただきまぁす!」

「いただきます」


 お師匠様が食べ物への感謝は忘れちゃいけないって言ってたから、いっつもこの挨拶はしている。それと、お師匠様の感想が聞きたいからあたいはいつもちょっとだけ待つの!


 でも、お師匠様は少し頬を引きつらせて、


「……ヒヨ。お前も目玉焼きを食べて見ろ」

「え? あむっ……甘いっ!」

「ばっちり塩と砂糖を間違えたみたいだな」


 うう……いつもはこんなミス一週間に一回ぐらしかしないし、おととい失敗したばかりだったのに……。


「また失敗しちゃった。ごめんなさい……」

「少し微妙な目玉焼きだが、ベーコンに砂糖を掛けられるよりかはマシだ。きちんとヒヨも食べるように」

「はぁい」


 もちろんあたいはちゃんと食べる。自分が作ったものなんだもの。食べきるのは当然。食べられないのはお師匠様が作った料理ぐらいのものよ! たまにはそのまんまのパンも美味しいね!


 あたいは甘い目玉焼きにしばしば時間をとられながらなんとか食べきって、「ごちそうさまです」とお師匠様と同時に言って食器を片付ける。


「そうだ、ヒヨ。今日は実践練習と行こう。食器を洗ったら自分の杖を持って玄関に来るように」


 実践練習……。


「はいっ!」


 やったぁ! あたいは絶対に座ってお勉強してるよりも、外で杖を持って魔法を使う方が楽しいもの。あたいの気分も弾む。弾んだ拍子にお皿を割らないようにしなきゃ!


 なんとかお皿を無事に洗いきって、あたいはすぐに自分の部屋に杖を取りに行く。あたいの部屋は一面が本棚で、中は分厚い本でびっしりと埋まってる。入り口の反対の壁に窓、その下にはベッド。それと、本棚の反対側に勉強用の机とタンスがある。


 あたいは机の引き出しから茶色のあたいの膝下ぐらいの長さの杖を出す。この杖はお師匠様に教えられながら作ったもので、三代目よ! 上手に作ったものほど長持ちするの。それとリュックを持って、あたいは家の中を駆け足で玄関まで向かった。


「準備できました!」

「よし。今日は予備の杖を作りに行こう。それも、少し強力なものをな」


 強力な杖?


「今日はなんの枝を拾いに行くの?」

「拾う? まさか。今日は“倒して”もらうぞ。賢者の杖の基本。トレントだ」


 トレント……。あの、でっかい木の化け物?!


「あ、あたい倒せるかな……」

「お前は自分が思っているよりも強くなっているのだ。自身を持て。これも、賢者の修行だ」


 お師匠様があたいの背中をぽんっと押す。うう、そうは言われても不安……。でも、あたい頑張る! 

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