明るい笑顔と震える手
新たな彼氏候補を護衛に引き入れ、ノクスは森に入る準備に
空はあいにくの雨模様、
それは獲物を食べようと待ち構える大きな口のようで、その中で朽ち果てた人間は森の養分として吸収される。暗い喰らいミュルクヴィズの森。
ノクス達三人の周りでは、複数のグループが森に入る準備をしている。どれも十人近いパーティーで、三人で入ろうとするノクス達を物珍しそうに見ていた。
「本当にみんな重装備で人数も多いわね」
ミレは少しだけ怖気付いていた。ノクスとスクートゥムが居るとはいえ、二日前に出会った猪のような魔物が沢山いるのかと考えると、どうしても恐怖で手が震えてしまう。
ミレの様子に気付き、自慢話を始めるスクートゥム。
「私はこの町で産まれました。この町で護衛の仕事をする父の背中を見て育ち、十五歳の時に初めてミュルクヴィズの森に入り、当時の仲間達と一緒に魔物と戦い、勝利しています。それから六年間、幾度と無く森に入り、幾度と無く生還しています。今では護衛に関してはこの町で一番の実力者だと自負しています」
鉄で作られた胸当ての鎧いをコンコンっと叩くスクートゥム。
「見て下さい。そんな私ですが、この森に入る時は未だに手が震えます」
スクートゥムは左の
「武者振るいではありません、怖いんです。魔物に大怪我を負わされたこともあります。道に迷い何日も
スクートゥムは右手でミレの手を掴み、左手の上に乗せる。震えるミレの手と、震えるスクートゥムの手が重なる。
「そんな怖がりな私ですが、依頼主に怪我を負わせたことはありません。必ず護りますから、安心して下さい」
雨の中咲く
♦︎♦︎♦︎
「目的地のバロメッツの木までそう遠くはありません! そのまま真っ直ぐ進んで下さい!」
スクートゥムは、
森の中を日が暮れるまで進み、
「このままでは追いつかれてしまいます! 私が留まり戦いますので、スクートゥムさんは師匠を連れて逃げて下さい!」
三人はノクスを先頭に、ミレ、スクートゥムの順番で入っていた。
「いいからそのまま走れっ!!」
振り返るノクスに怒鳴るスクートゥム。経験豊富なスクートゥムの指示に従い、前方の魔物を倒しながら進む。
「あっあっあっ! あたしもうっ限界かもっ!!」
普段運動をしないミレが、大量の汗をかきながら走り、泣き言を口に出す。
「頑張れっ! もう少しだっ!」
飛びかかってきた護狼を盾で払い、スクートゥムが叫ぶ。空気の重い森を抜け、月明かりのさす拓けた場所へ出る三人。
ノクスはサッと振り返り、追って来た魔物を迎え撃とうとする。ミレはダイブするようにノクスの隣に倒れ込む。スクートゥムは息を切らせ、ノクスの肩に手を置く。
「はぁ! はぁ! もう大丈夫です!」
護狼は森の中で留まり、頭を垂れて
「アレは
スクートゥムはノクスに状況を説明する。話を聞き、フウッと息を吐くノクス。直ぐにミレの状態を確認する。
「だい……じょうぶそうですね、良かった」
血の出る傷や、アザなども無い。スクートゥムの仕事に感謝するノクス。
「コレが! ハァッハァッ、大丈夫にそうに! ハァッハァッ、見えるっ!!?」
息も
「少し痩せたように見えます、運動は体調管理に欠かせませんね。魔法と勉強の他に、ジョギングも始めましょう!」
ミレの日課に嫌いな運動が追加され、白目になる。そのやり取りを笑って眺めるスクートゥム。
「それより少しでも休憩しましょう、今日は雨だと思っていたのですが……」
空を見上げるスクートゥム、そこに雲は無く、
「バロメッツの木は、月あかりに照らされて
空から視線を落とし、前方へと向けられる。そこには月明かりに照らされたバロメッツの木と、大きな脈打つ果実があった。
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