大量の荷物を抱えたアロガンスと一緒に、ミレとノクスは『ミュルクヴィズの森』と呼ばれるサルトゥス王国の北にある深い森を目指していた。


「それで、俺達は今どこを目指してるんだ??」


 何をする為に旅に出たのか分かっていないアロガンス。半分ピクニック気分で尋ねる。


「私達は今、北の方にある……、森を目指しています」


 ノクスはミュルクヴィズの森とは言わずににごす。そこは深い緑と魔物が多く存在する森。一度入ると帰ってくる者の少ない森。生きた者は好んで入ることの無い森。


「へぇ〜、そこで何するんだ?」


 アロガンスは手に持つ剣をブンブン振り回しながら歩いている。ミレはそれを避けるようにノクスにピッタリとくっついて歩く。


「そこではまず……、羊を探します。その森にいる羊の角が必要なのです」


 ノクスは羊のことも濁す。ミュルクヴィズの森にだけえると言われるバロメッツの木。それは四月になるときた羊がみのる木だった。とても危険な果実。


「ふ〜ん、羊ならリーウスの村にもいたのにか?」


 『時と生命の考察』に書かれている素材は、どれも集めるには困難な物ばかりで、それも希少な物ほど成功する確率は高くなると書かれていた。『時間』と『生命』に関する一切いっさいの魔法を禁止すると、国際魔法協会の定めた法律で決められていたが、『寿命を十二倍に引き伸ばす魔法フェースティーナ・レンテ』は両方に触れる禁術だった。『時間』と『生命』を扱う魔法に失敗した場合、それは行使した術者の『死』を意味しているからだ。ノクスは迷うことなく困難な道を選ぶ。


「少し変わった羊のつのです。魔物の一種なので戦闘が必要になるかもしれません」


 少しだけ魔物の言葉に怯んだアロガンス。


「まぁ、魔物っつっても所詮羊だろ? 俺が毛を刈るついでに命も刈り取ってやるぜ!」


 剣を構え、チラッとミレを見るアロガンス。折角の決め台詞も聞いていないミレ、心ここにらず。ノクスとアロガンスの会話に全く興味を示さず、どうアロガンスを追い返そうか、そればかり考えていた。


「よろしくお願いします。やはり幼馴染は頼りになるなりますね、師匠」


 アロガンスの男らしさを一緒になってアピールするノクス。師匠と呼ばれ意識が戻ってくるが、ほとんど聴こえていなかったミレ。


「やはりおさかなじるは美味しくなりますね?? 何それ美味うまそうじゃない!」


 聞き間違いの料理を食べたいと駄々をこねるミレ。アロガンスアピールを忘れ、師匠の為にどう魚を入手するか考えるノクス。



♦︎♦︎♦︎



 大きな岩の横にせっせとミレの寝床を準備するノクス。一回目のミレの時と同様、一通り驚き、アゴが外れるアロガンス。


 道中で捕まえた川魚で丁寧に出汁だしを取り、コレまた道中で手に入れたフキノトウやノビル、タラの芽などの山菜を煮込み、ミレの母から頂いた塩やスパイスで味を整える。タンパク質が足りないと思い野鳥を捕まえて素早く捌き、香草と一緒に焼く。『げん』の魔法で復元したパンも並べ、その日の夕食が完成する。


「あああぁ、美味しそう! ありがとう弟子!」


 モリモリ食べるミレ。幸せそうな姿にホッとするノクス。


「魔法使いって何でもできるんだな……、明日は俺の荷物も小さくしてくれよ!」


 一日中大荷物を担いで歩いたアロガンスがノクスに頼む。ミレのこと以外全く気が利かないノクスは一言謝り、明日は縮小魔法で小さくすると約束した。


「チョットは鍛えた方が良いから、持たせとけば良いのよ」


 パンを口いっぱい頬張りミレが言う。小枝を投げて抵抗するアロガンス。


( あぁ、コレが幼馴染のやり取り。恋愛に発展する予感がしますね……)


 的外れが脳内を占めるノクス。小枝の仕返しに投げた拳大の石がアロガンスの頭に当たっていた。


 三人は夕食を食べ終わり、ノクスの淹れた紅茶を飲んでいる。


「その森って明日くらいに着くのか?」


 アロガンスが紅茶を口に含みながら質問する。


「いいえ、今のペースだと後十日ほどでしょうか」


 紅茶を噴き出すアロガンス。


「おいおい! そんなに遠いのかよ。三日位で帰れると思ってたぜ」


 三日の旅にしては大荷物。


「それだとミュルクヴィズの森だって行けるな」


 妙に感の良いアロガンス。本当に行くとは思っていない為冗談で言い、一人で大笑いしている。



 アロガンスは自分で持ってきた毛布にくるまり、ガーガーとイビキをかいて寝ている。ノクスは焚き火のそばで暖をとっていた。イビキがうるさく寝付けなかったミレがノクスの隣に座る。


「ねぇ、目的地ってミュルクヴィズの森でしょ」


 ミレの質問に言葉がつまるノクス。


「あんたって私に嘘つけないから、分かりやすいのよね」


 焚き火に乾いた枝を投げ入れ、ミレが言う。


「はい。でも師匠には手前の町で待っていてもらう予定です」


 バロメッツの羊の角は、アロガンスと取りに行く予定だった。そしてバロメッツはアロガンスが倒したことにする。そうすれば師匠に危険は及ばずアロガンスの評価が上がる、そう計画していた。


「嫌よ、私も一緒に行く」


「しかし師匠! あの森には」


「行くったら行くの。コレは師匠の私が決めたんだから異論は認めません。だから死ぬ気で守りなさい」


 言うだけ言って空を見上げるミレ。


「……分かりました。魂に誓って、必ず守ります」


 ノクスもミレの視線の先を見上げる。


 そこには手を伸ばせば届きそうな、キレイな星で埋め尽くされていた。


 


 

 

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