羊
大量の荷物を抱えたアロガンスと一緒に、ミレとノクスは『ミュルクヴィズの森』と呼ばれるサルトゥス王国の北にある深い森を目指していた。
「それで、俺達は今どこを目指してるんだ??」
何をする為に旅に出たのか分かっていないアロガンス。半分ピクニック気分で尋ねる。
「私達は今、北の方にある……、森を目指しています」
ノクスはミュルクヴィズの森とは言わずに
「へぇ〜、そこで何するんだ?」
アロガンスは手に持つ剣をブンブン振り回しながら歩いている。ミレはそれを避けるようにノクスにピッタリとくっついて歩く。
「そこではまず……、羊を探します。その森にいる羊の角が必要なのです」
ノクスは羊のことも濁す。ミュルクヴィズの森にだけ
「ふ〜ん、羊ならリーウスの村にもいたのにか?」
『時と生命の考察』に書かれている素材は、どれも集めるには困難な物ばかりで、それも希少な物ほど成功する確率は高くなると書かれていた。『時間』と『生命』に関する
「少し変わった羊の
少しだけ魔物の言葉に怯んだアロガンス。
「まぁ、魔物っつっても所詮羊だろ? 俺が毛を刈るついでに命も刈り取ってやるぜ!」
剣を構え、チラッとミレを見るアロガンス。折角の決め台詞も聞いていないミレ、心ここに
「よろしくお願いします。やはり幼馴染は頼りになるなりますね、師匠」
アロガンスの男らしさを一緒になってアピールするノクス。師匠と呼ばれ意識が戻ってくるが、ほとんど聴こえていなかったミレ。
「やはりおさかな
聞き間違いの料理を食べたいと駄々をこねるミレ。アロガンスアピールを忘れ、師匠の為にどう魚を入手するか考えるノクス。
♦︎♦︎♦︎
大きな岩の横にせっせとミレの寝床を準備するノクス。一回目のミレの時と同様、一通り驚き、アゴが外れるアロガンス。
道中で捕まえた川魚で丁寧に
「あああぁ、美味しそう! ありがとう弟子!」
モリモリ食べるミレ。幸せそうな姿にホッとするノクス。
「魔法使いって何でもできるんだな……、明日は俺の荷物も小さくしてくれよ!」
一日中大荷物を担いで歩いたアロガンスがノクスに頼む。ミレのこと以外全く気が利かないノクスは一言謝り、明日は縮小魔法で小さくすると約束した。
「チョットは鍛えた方が良いから、持たせとけば良いのよ」
パンを口いっぱい頬張りミレが言う。小枝を投げて抵抗するアロガンス。
( あぁ、コレが幼馴染のやり取り。恋愛に発展する予感がしますね……)
的外れが脳内を占めるノクス。小枝の仕返しに投げた拳大の石がアロガンスの頭に当たっていた。
三人は夕食を食べ終わり、ノクスの淹れた紅茶を飲んでいる。
「その森って明日くらいに着くのか?」
アロガンスが紅茶を口に含みながら質問する。
「いいえ、今のペースだと後十日ほどでしょうか」
紅茶を噴き出すアロガンス。
「おいおい! そんなに遠いのかよ。三日位で帰れると思ってたぜ」
三日の旅にしては大荷物。
「それだとミュルクヴィズの森だって行けるな」
妙に感の良いアロガンス。本当に行くとは思っていない為冗談で言い、一人で大笑いしている。
アロガンスは自分で持ってきた毛布に
「ねぇ、目的地ってミュルクヴィズの森でしょ」
ミレの質問に言葉がつまるノクス。
「あんたって私に嘘つけないから、分かりやすいのよね」
焚き火に乾いた枝を投げ入れ、ミレが言う。
「はい。でも師匠には手前の町で待っていてもらう予定です」
バロメッツの羊の角は、アロガンスと取りに行く予定だった。そしてバロメッツはアロガンスが倒したことにする。そうすれば師匠に危険は及ばずアロガンスの評価が上がる、そう計画していた。
「嫌よ、私も一緒に行く」
「しかし師匠! あの森には」
「行くったら行くの。コレは師匠の私が決めたんだから異論は認めません。だから死ぬ気で守りなさい」
言うだけ言って空を見上げるミレ。
「……分かりました。魂に誓って、必ず守ります」
ノクスもミレの視線の先を見上げる。
そこには手を伸ばせば届きそうな、キレイな星で埋め尽くされていた。
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