ミエミエの見栄

「それで師匠、アロガンスさんを誘う件、お許しいただけますか?」


 ノクスはミレと連れ添いながら、家路を目指し歩いていた。


「好きにして、どうせ来ないから」


 ミレはアロガンスの性格をよく理解していた。


 村の中では強気で傲慢ごうまんな性格のアロガンスも、村の外へ出て何かを成し遂げようとはしない。以前ガラの悪い旅人が来た時も自宅に引きこもり、色々とことが起こり、ミレの祖母が魔法で追い返した後にひょっこりと現れ、「俺が知ってたら剣で切ってやったのに」と発言している。村人の冷ややかな視線にも気付かないマヌケ、それがアロガンスだった。


「多分あんたが村にいる間は、家にいると思うわよ」


 背が高く、スキエンティア魔術院の特級生で魔法が強いノクスの噂を聞き、からに閉じこもっているはずだと考えるミレ。


「では今日の夕食時にご家族へと話、許可をいただきましょう。決まれば明日にでも出発です」


 気の早いノクス、何を言っても無駄だろうと悟るミレ。


「はいはい、許可がとれたらね」


♦︎♦︎♦︎


 簡潔に言うと許可は取れた。祖母と祖父は快く認めてくれ、心配していた母も学費のことを考え、渋々了承してくれる。最後まで抵抗していた父も、祖母の説得とノクスの「命に変えて守ります」の発言に最後は納得してくれた。最も大変だったのがヘリアンテスで、一緒について行くと言って聞かなかった。最後はねて寝てしまう。


「明朝直ぐに出発なさい。この子は私が見ておきますから」


 祖母は優しくヘリアンテスの髪を撫でながら言う。


 二人はノクスの縮小魔法で必要なモノを腰袋に詰め、旅支度を済ませ眠りに落ちる。


 翌朝、家族に見守られ出発する。部屋の窓から拗ねたヘリアンテスの顔が見え、ミレと目が合うとそっぽを向いてしまう。


「ゴメンね……」


 ミレは一言呟き、背中を向ける。二人はアロガンスの家を目指し歩く。




 庭で山羊やぎを飼うアロガンスの家に着き、玄関の扉を叩く。間の抜けた返事が返ってきて、アロガンス本人が顔を出した。


 ボサボサの茶色い髪の毛に、細いがダラけた肉体。平均的な身長に悪く無い顔。鼻が右に曲がっている以外は、絵に描いたような平凡な青年だ。


「げっ、ミレじゃんか! 朝から何のようだよ」


 ミレは誘う件は了承したが、自ら口にするのには抵抗があり、ノクスの脇腹を肘でつつき合図を送る。


「初めましてヒエムス・ノクスと言います」


 丁寧に挨拶するノクス。怖がりながら握手を返すアロガンス。


「あぁどうも、ナレス・アロガンスですだ」


 アロガンスは自分が一つ歳上なのは把握はあくしていた。頑張って敬語が出ないように気をつけて喋る。


「ですだ? 何よその喋り方」


 フフッンと鼻で笑うミレ。


「うるせえよっ! 馬鹿にしにきたのか!?」


 後ろに控えるノクスを気にして声量は抑え目で対抗するアロガンス。


「アロガンスさん、私達は今からこの村を出て旅に出ます」


「あぁ、そう」


「アロガンスさんは剣術の腕が立つそうで」


 んっ! と顔を上げ表情が明るくなるアロガンス。


「まぁな! ノク……、お前分かってるじゃないか」


 一段階調子に乗るアロガンス。


「その腕を見込んで、是非私達の旅に同行してほしいのです」


 ミレは隣で苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「なるほどなるほど。魔法使いだけじゃ心配だから、俺の剣の腕前を頼ってきたと。そう言うことだな?」


 二段階調子に乗るアロガンス。


「まさしくその通りです、それに見た目も悪く無い」


(見た目も悪く無い、悪いの反対だから良い、見た目も良い……。見た目がカッコ良い!)


 少し意味を湾曲わんきょくさせ受け取るアロガンス、最大値に達して調子に乗るアロガンス。


「はぁーはっはっは! そうかこのアロガンス様の力が必要なんだな!」


 しっかりとやる気にさせるノクスをにらむミレ。小声でノクスに話かける。


「ちょっとあんた、人と話すの苦手って言ってなかった? 乗せるのスッゴイ上手じゃない!?」


 ノクスも小声で返す。


「それとコレとは別です。やはり恋愛小説と言われても『幼馴染』は外せません」


「おいおい、二人で何をコソコソと話してるんだ? それで出発はいつだ!」


 すっかり行く気満々のアロガンス。


「今日の今です、私達は準備出来ております」


「きょきょきょ今日!!? 流石さすがに急すぎないか?」


 すかさずミレが話す。


「別に無理しなくて良いの、本当に……色々あるもんね準備。外は魔物もいるし帰って来る時なんか野盗にも襲われたのよ。マジキケンガイッパイ」


 珍生物でも手一杯のミレ。そこに傲慢ごうまん臆病おくびょうな鼻曲がりの相手までしたくは無かった。どうにか諦めてもらう為にと脅す。


「まっ、魔物……。野盗……」


 狙い通りあからさまにひるむアロガンス。


「確かに危険の伴う冒険となるでしょう。それでもアロガンスさんは、彼女を守ると誓えますか?」


 ノクスは真剣な表情でアロガンスに尋ねる。一度最大値に達したお調子者メーター、弱気な返事を返すには難しい。何よりここで返事を間違えば、村での地位は今よりさらに下がることをアロガンスは分かっていた。


「あっ……ったり前だ!! ミレ、俺がお前を守ってやる、直ぐ準備するから待ってろよ!」


 バタンと扉を閉じ、バタバタと準備する音が聞こえて来る。


 同年代の女性の前でカッコつけたいお年頃。男の子とは、そういう生き物である。

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