熱心なストーカー
ノクスは付かず離れずの距離で師匠について行く。最初は近くまで行ったのだが、師匠の振り回す傘が鼻先を
「師匠っ、これは何かの間違いです! 貴方のような
前を歩く師匠に、思い付いた考えを投げかける。ノクスの言葉は怒りに震える背中へあたり、凄い勢いで返ってくる。
「シショウ! 師匠師匠師匠っ!! うるさいのよ! えぇ、ごもっともです。私くらい高尚な人間は、高々スキエンティア魔術院の試験くらい軽ーーーーーーーーく落ちますとも! 私だって何かの間違いじゃないかと直談判にも行きました! さっきは見栄張ってギリギリ落ちたと言いましたが、筆記試験の結果は年齢より低く、実技試験での私の炎は、人形を溶かすどころか、風で吹き戻される始末! そうです! ハッキリと私は結果で落とされました。陰謀なんて密かに企む必要は無く、自然と落ちたんです! ……なんで私は自分で落ちた落ちた言わないといけないよの……」
最後の方は、言葉に勢いがなくなっていく。これは落ち着いてきたのかなと勘違いして話しかけるノクス。
「ししょ……」
「次師匠って呼んだら殺すから」
師匠から初めて聞く『殺す』の言葉に悲しくなるノクス。
(あぁ、師匠の
どこかズレのある脳内。
「誰にだって、緊張して実力が発揮出来ない日もあります。調子が悪く、思うように想いを言葉に乗せられないことも」
きっと予期せぬ出来事が重なり、実力を発揮出来なかった、そう考えるノクス。
「なんなのよ! 貴方のそのグイグイ傷口に塩を塗るスタイルっ! 調子は上々で緊張もしていませんでした! とにかく着いてこないでっ!!!」
ノクスは更に師匠と距離を空け歩く。声を届けるのに、少しだけ声を張る必要がある距離。距離は離れ師匠の機嫌は悪い、しかしそれ程悪い気分ではなかった。三十分程街中を二人? で歩き続けた。
「……貴方暇なの?」
謎の状況に耐えきれなくなるミレ。突然立ち止まり、振り返り、口を開く。
「いいえ暇ではありません。どうすれば機嫌を直していただけるのか考えています」
ニッコリと微笑み、ありのまま答える。
「貴方がその目障りなブローチを付けて、私の後を
「申し訳ありません、私がし……ミレ様の元を離れることは出来ません。ですがもう一つの方は直ぐにでも解決いたします」
ノクスは胸元に着けた金のブローチを外し、遠い屋根の上まで投げ捨てる。
「わわわっ! 何やってるのあんた!? それがどれほど価値のあるモノか、分かって捨てたの!?」
自らの言葉の結果に驚き、焦るミレ。
「金で作られていますが、たかが知れています。パンを数個買えば無くなる程度でしょう」
「どんなパン食ってるのよ! ってそうじゃなくて、金銭的価値の話じゃないの!」
話の通じないノクスを
「失念しておりました。このブローチには紛失防止魔法と盗難防止魔法が掛けられており、無くしても返ってくるのでした」
ノクスはブローチを受け取る際、そのように説明されていた。
「ばっ、ばっかじゃない! そんなこと知ってるわよ。どうせ私をおちょくってやったんでしょ」
無事返ってきたことに
「困りました。街中では少々危険ですが、魔法で溶かしてしまいましょう」
サッと杖を抜き、ブローチに向かって魔法をかけようとするノクス。慌てて止めに入るミレ。
「コラー! 冗談でもやめなさい! もう分かったから、ブローチは気にしない。だからそんなことはやめて……」
朝の沈んだ気分はどこへやら。見たこともない生き物に翻弄されるミレ。
「それに
ほとほと困り果て、疲れてくるミレ。
「それは何かの引っかけ問題ですか? 金の融点は千度と少々です師匠」
師匠とのやり取りを思い出し、
「あんた又……もういい、相手するだけバカみたい」
朝食を食べていないミレ。泣いたり怒ったり歩き回ったりして気力が底をつく。
「今回は許してあげる。私お腹がすいたからもう帰って」
機嫌が直れば帰ってくれるだろうと思い言葉にする。手のひらをヒラヒラと揺らし、帰るよう促す。
「かしこまりました、直ぐに買ってまいります!」
ノクスは
「な、なんなのあの生き物……」
そのまま置いて帰ろうかと思ったが、何故か動けないミレ。
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