第3話 無理難題への挑戦
さて、ここまでヤンとラインハルトに託(かこつ)けてパエッタ提督とシャフト技術大将という、二人のビミョーな人物の弁護を展開してまいりました。
手前味噌になりますが、ある程度は弁護に成功したように思えます。
そして、沢山の方々の評価と感想を頂き、続編への要望もいただきましたので、期待に応えていきたいと思います。
色々リクエストもいただきまして次の標的・・・いやいや弁護対象を探しました。
敬愛すべき委員長閣下や秘密警察の募金おじさんなども考えましたが、ここは、ラスボス、最凶の男の弁護に努めてみたいと思います。
最凶の二文字で、ピンときた方もおられるかとは思いますが、ご紹介いたしましょう。
今回の考察対象は、おそらく銀河英雄伝説史上、最低ぶっちぎりの好感度を叩きだし、怒りと吐き気を催す人物。
自由惑星同盟軍、作戦参謀。アンドリュー・フォーク准将です。
「おいおい、ついに加藤が血迷ったは」と思いの方もいらっしゃると思いますが、大丈夫です。
大丈夫、大丈夫。
きっと今回も華麗に弁護できるに違いありません。
大丈夫、大丈夫。
さて、彼の来歴から。
小説を読みなおしましたが、作戦参謀としか書かれていませんでした。
どうやら艦隊勤務ではないようです。統合作戦本部か宇宙艦隊司令部に作戦課でもあるのかもしれません。
作中では26歳で准将。
ん、26歳?
神のごとき作者の田中先生に物申すのは、不遜な事とは重々承知しておりますが、26歳で准将はあり得ないんじゃないでしょうか。帝国貴族の坊ちゃんじゃないんですから。
士官学校は20歳で卒業、少尉で任官ですから、僅か6年で准将。
士官学校首席で卒業だそうですが、それでも異常に高い階級です。
毎年、毎年、一階級昇進ですか?
この調子で行くと30歳になるころには元帥閣下になりそうなんですが。
ブルース・アッシュビーの再来かな?
この人何をしてここまで昇進できたのでしょうか。私、気になります。
お偉いさんとの太いパイプがあったとしても、この昇進速度は尋常ではありません。実は凄い軍人だったのかもしれません。 エル・ファシル級の功績が二つ三つあるんじゃないのでしょうか。
それとも、もしかしたらフォーク准将は36歳の間違いじゃないのかな。36歳だとしても超早い昇進速度ですけど、有りえなくはない。
うん。きっとそうに違いありません。
もう、先生もうっかり屋さんなんだから。
徳間の編集は仕事しろ。
「先生。フォーク准将の年齢設定がおかしいです。36歳の間違いではないでしょうか」って言いなさいよ。
設定からして謎多き男ですが、初登場からエンジン全開の嫌な奴を演じてくれます。
個人的ルートを使って、上層部に大規模な帝国領内への侵攻計画を捻じ込んできます。
やり方が汚い。
参謀が作戦案を提出するのは業務だからいいとしても、正規ルートを使って出しなさいな。個人的な口利きなんて卑怯です。
しかし、同時に疑問も浮かびます。どのルートを通ろうが、最終的に議題として採用、不採用を判定するのは上層部です。この作戦案はロボス元帥の裁可を得て、会議の議題として扱われたことになりました。
これ、もしかしたらフォーク准将はロボス元帥に忖度して、元帥の意中の作戦を自分の名前で提案した可能性があります。
なら、どうして元帥は自分の名前で作戦を提案しなかったのか。それは、この作戦案があまりに大規模で反対意見が続出する可能性が高かったからです。
仮に、この帝国侵攻作戦が会議でぼろくそに評価された場合、提案者の面目は丸つぶれになります。
そんな可能性のある提案を宇宙艦隊司令長官にさせるわけにはいきません。
フォーク准将は、ロボス元帥の代理として作戦案を提出したのかもしれません。
これなら、会議で矢面に立つのはフォーク准将で、叩かれるのも彼になりますし、事実そうなりました。
元帥の腰ぎんちゃくとしては理想的な仕事ぶりですね。
こう書くと、ロボス元帥が酷い人に思われますが、帝国への遠征は最高評議会での決定事項なので、遠征を拒否する権利はシビリアン・コントロール下にある同盟軍には有りません。
いわば、フォーク准将はお偉いさん達の代りに泥をかぶる役を仰せつかったという訳です。
きっと、彼も「どうして私が・・・」と言う思いがあったでしょう。
ですが、腰ぎんちゃくとはそういうものです。普段目をかけられて重用されるのは、いざという時に偉いさんの代りに泥をかぶる仕事があるためです。
諦めましょう。
さて、彼が提出した作戦案ですが、作戦戦力10個艦隊。同盟軍総兵力の60%を投入するという、大作戦となります。
現有戦力の60%投入は一見非常識ですが、ラインハルトのラグナロク作戦はこれ以上の規模ですので、一概に駄目だとは言えないでしょう。
では、何が駄目だったか。そう、補給です。
結局、同盟軍は10個艦隊を維持する補給線を確保することが出来ませんでした。
これ、少し考えたら当たり前なんですよね。そもそも、同盟軍って防衛に特化した軍組織で帝国領への遠征なんて出来る訳ないんですよ。
同盟軍は基本的にイゼルローン回廊から侵入してくる帝国艦隊を、自国の領域で迎撃することに終始しています。ダゴン会戦からアスターテ会戦に至るまで全てそうです。
そのような迎撃専用の部隊編成の軍組織で、大量の物資を遠距離に運ぶ必要性がありません。必要性が無いという事は、それ専用の装備も無いという事です。
それを無理くり遠征させるとなると一個か精々三個艦隊が限界だったんじゃないでしょうか。
これなら、イゼルローン回廊から少しだけ「こんにちは」して、怖い人たちがやってきたら「さようなら」その後、「帝国領に遠征したぞ」ってドヤればいいんですから。
フォーク准将はこの作戦案を提案すべきでした。
しかし、彼はそれをしませんでした。しなかったのか出来なかったのかは謎ですけど。
真相はどうあれフォーク准将の作戦立案能力は間違いなく貧弱です。これでどうやって士官学校首席になれたのでしょうか。
もしかして、あんまり難しくないのかな。士官学校。
そして、彼を彩るのが、意味不明の発言の数々。
「それは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになろうかと思います」
「自由と正義の旗を掲げて進むところ、勝利以外の何物が前途にありましょうか」
全く何も言っていません。役人の答弁としては100点満点と言えるでしょう。
そして、楽観論と循環論法を繰り広げて、あのヤンをげんなりさせます。
内容の完成度は違いますが、フォーク准将からはヤンと同じ匂いがします。
少しは元上司の気持ちがわかったか、この野郎。
結局、遠征はフォーク准将の提案通り決行され、案の定同盟軍はにっちもさっちも行かなくなります。
そして、彼の名シーンがついに起こりました。
フォーク准将はビュコック提督に少し問題点を指摘されただけで、ヒステリーを起こしてぶっ倒れます。
何が起きたのでしょうか。
戸惑うビュコック提督に軍医が、(因みにヤマムラさんだそうです。日本人いたんや。知らんかった)転換性ヒステリー症による神経性盲目と即時に診断しました。
私、この手の病気に詳しくないのですが、ちょっと診察しただけで病名まで分かるものなのでしょうか。
外傷もなく泡吹いて倒れられても、何が原因か分からないと思うのですが・・・
ああ、なるほど。これが初めてではないんですね。
フォーク准将は事あるごとに、この病気を発症していたのですね。だから、ヤマムラ軍医はすぐに診断出来たのか。ある意味で掛かり付けのお医者さんだったわけですね。
道理で、症状の発生要因から対処法に至るまで、スラスラと解説出来る訳ですね。
納得納得。
「解任しろよ。司令部」
そんな、持病を持っている奴に作戦参謀なんて務まる訳ないだろうが。入院させてやれよ。
何故(なにゆえ)に更迭しなかったんだ。
病気の人間を働かせるなんて、同盟軍マジでブラック軍隊。
哀れ、フォーク准将は同盟軍に使い潰されて退場します。
それでもアムリッツァ会戦で戦死した同盟軍将兵より、よっぽど恵まれていましたので、同情はしませんが。
そもそも、自己の優位性を他者の劣等性から導き出したり、循環論法を駆使して相手を丸め込もうとする性格に虫唾が走る。おまけに作戦立案能力も無く、精神薄弱とかいい所が一つもありませんでした。
その後の彼はご存じのように、クーデターに参加してクブルスリー大将を襲ってみたり、地球教に洗脳されてヤン暗殺の捨て駒にされて宇宙の塵となりましたとさ。
めでたし、めでたし。
めでたくなんかねぇ。
フォークてめぇ、よくもヤンの暗殺に関わりやがったな。楽にあの世に旅立てると思うなよ。
絶対に許さん。許さんからな。絶対にだ。ムキー。
あれ、なんか視界が・・・・・・・・
終わり
銀河英雄伝説論 加藤 良介 @sinkurea54
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。銀河英雄伝説論の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます