第52話 告白されました


温かくて力強い腕が背中に回り、顔がアキトの胸に押しつけられている。


体が密着した状態なのに、不思議といつもみたいに恥ずかしいとは思わなかった。


ただただ、圧倒的な安心感があった。


「ティアメイ様」


「は……はい」


「お嬢様は私が眼鏡を外せば、私のことをお嫌いになりますか?」


私は首を振った。


「ううん……そんなことない」


涙で顔がぐしゃぐしゃだったけど、伝えたくて、顔を上げる。


「そんなこと、あるわけない」


アキトはふわりと微笑み、頷いた。


「お嬢様は、人を外見で判断なさる方ではありません。そんなことは、生まれたころからお傍にお仕えしている私が、一番よく分かっています」


ああ……駄目。


そんなこと言われたら、涙腺が崩壊しちゃうじゃない。


信じてほしかった。オスカーにもエルにも、学園のみんなにも。


でも、私の行動が誤解を生むものだったせいで、信じてはもらえなかった。


リュシアンやフィリップ先生は私の味方をしてくれたけれど、それは『私が外見でしか人を見ていても、見ていなくても、どっちでもいい』という前提に立つものだ。


本当の意味で私を信じてくれているのは、アキトだけだった。


私はアキトを力いっぱい抱きしめ返した。


「ありがとう……アキト」


「私が迷っていたのは、もっと別のことです」


アキトは打ち明けると、ハンカチを取り出し、私の目元に当ててくれた。


涙を拭いて、鼻をすするのを待ってくれる。


私の呼吸が落ちつくのを待って、アキトは言った。


「私は、あなたの専属執事を辞めるべきかもしれない。そう思っていました。

ティアメイ様にお仕えすることが嫌になったからではありません、私自身の問題です」


一番恐れていたことを口に出され、私は凍りついた。


でも、ちゃんと最後までアキトの話を聞こう。


そう思えるくらいには回復していた。


「ウェンゼル公爵家と対立するのは得策ではない。そう分かっていたのに、あのとき、お嬢様をオスカー様に奪われて、私は我を忘れて激昂しました。

公爵様に報告し、指示を仰ぐべきところを独断で動き、個人的な感情でオスカー様に敵対する行動をとりました。

私はあのとき、どうしても自分の手でお嬢様を取り戻したかった。この手でオスカー様を殴り飛ばしたいとさえ思った。


……俺は執事としての自分ではなく、男としての自分を優先してしまったんです」


アキトの一人称が、俺に変わっている。


そのことに気づくと同時に、アキトが私の唇を奪った。


あのとき頬っぺたにされたような軽いキスではなく、しっかりと唇が触れ合っているのを確認できるだけの、数秒にわたるキス。


終わると同時に、アキトは男の人の顔で言った。


「ティアメイ様。あなたが好きです」

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