第43話 二校間交流会が始まりました
フィリップ先生の忠告は、少なからず私の心を動揺させた。
でも、それ以上にやるべきことが山積みだった。
二校間交流会まで一週間を切り、当日の段取りの最終確認やリハーサルに追われて、目が回るほどの忙しさの中、私はいつの間にかそのことを忘れていた。
そして、当日。
七台のきらびやかな馬車を引き連れて、ウェンゼル公立学園生徒会の面々は、我がプリスタイン公立学園眼鏡科のお城へやってきた。
正門をくぐり、校舎の前にある前庭に私がたち、エル、アキト、リュシアン、フィリップ先生が周りに立っている。
その後ろに、眼鏡科の教員や生徒たちが並んで出迎える格好だった。
馬車からオスカーが降りると、あまりの眩しさに目がくらみそうだった。
うっ……! 相変わらずの超イケメン、金髪に青縁眼鏡が最高に似合っている。
しかも今日は、漆黒を基調とした優雅なデザインの制服を身にまとっているから、なおさらイケメン度が高まっている。
男子生徒でさえも、思わず溜息をついて見とれてしまうほどだった。
「ごきげんよう、オスカー様。お会いできて光栄ですわ。プリスタイン公立学園眼鏡科、学園長のティアメイと申します」
「はじめまして、ティアメイ殿。お会いできて光栄です」
と言い、オスカーは私の手の甲に口づけた。
ぎゃあああああ!
心の中で思いっきり悲鳴を上げたけど、何とかこらえて微笑みを保つ。
何が「はじめまして」よ、ぬけぬけとよく言うわ。
「本日は遠いところをお越しいただき、誠にありがとうございます」
私がお辞儀をすると、眼鏡科の全員がそろってお辞儀をする。
オスカーは品のよい笑顔で、連れてきた生徒たちを示した。
「こちらこそ、このような機会を与えていただき、ありがとうございます。こちらがウェンゼル公立学園の生徒会メンバーです。わたくしが生徒会長を務め、副生徒会長、会計、書記、総務となっております」
生徒会のメンバーは全員男性だった。
誰も眼鏡はかけてないけど、全員物すごいイケメンである。
引率の教師もいるのかと思ったが、どうやら連れてきていないらしい。
大人が必要ないぐらい、オスカーの信頼は絶大なのだろう。
何せ、学園長はオスカーのお父さんだもんね。
「さっそくですが、眼鏡科のご紹介をいたしますわ。どうぞこちらへ」
私はアキトと目配せし、段取りどおりオスカーたちを先導した。
アキトはスリッパを用意したり、「足元にお気をつけください」などの気遣いを怠らない。
生徒たちはそれぞれの教室に戻って授業を受けるけれど、それは全部普通科目の授業だ。
眼鏡科らしい授業――製作技術や実技については、二校間交流会の間は行わないよう徹底している。
情報を盗まれるのを防ぐためだ。
「美しい城ですね」
校舎を眺めてオスカーは言った。
ありきたりな社交辞令ではあるけれど、まんざら嘘ってわけでもなさそう。
「ありがとうございます。父も喜びますわ」
この眼鏡科は、私の発案から数ヶ月で建設された。
お父様がこだわりぬいて作り上げた、大切な学び舎だ。
そして、私の宝物でもある。
それを認められたようで、少しだけ嬉しかった。
「歩きながらで恐縮ですが、眼鏡科の生徒会メンバーをご紹介いたしますわ。生徒会長のエルネスト、副生徒会長兼会計のアキト、書記のリュシアン。そして、生徒会顧問のフィリップ先生です」
四人はそれぞれに挨拶をし、ウェンゼル学園の人たちと握手を交わす。
よし、なかなか友好的なムードじゃない。
「こちらは音楽室になっております」
教室前方には銀の譜面台が並び、後方にはピアノやバイオリンといった楽器が並んでいる。
私は歩いていって、壁にあるレバーを引いた。
「おお……!」
ぎぎぎ……と厳めしい音を立てて、天井が開き、壁が地面にめり込んでいく。
あっという間に、野外音楽堂のでき上がりだ。
この音楽室は学生寮や住居と離れているので、思いきり演奏しても迷惑にならない。
「素敵でしょう?」
大好きな場所を披露できるのが嬉しくて、思わず私は満面の笑みで言った。
「はい、とても」
オスカーも心からの笑顔を見せてくれる。
二校間交流会は極めて順調だった。
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