第22話 アキトのクビを回避しました


「い、いきなりどうしたの?」


慌てて問いただすと、アキトは打ちひしがれた声で言った。


「ティアメイ様がご入学の際、旦那様はわたくしにあなたをお守りするようお命じになりました。わたしくしはその信用を裏切ってしまいました。目の前であなたをさらわれ、よりにもよってウェンゼル公爵家に奪われるとは……旦那様に顔向けできません」


「ちょちょちょ、やめてよ! 悪いのは、いきなり眼鏡科に乗り込んできたオスカーのほうでしょ? アキトは何も悪くないじゃない」


「いえ、これはわたくしの責任です」


頑としてアキトは譲らない。まずい、これはまずい。


このままだと、執事辞めるとか言い出しかねない。


それにアキトの言うとおり、親バカなお父様がこのことを知ったら、私の専属執事から外す可能性もある。


こんなに長い間一緒にいて、前世のことも何でも話せて頼りになるのに、それは絶対困る。


「いい? アキト。私はこうして無事に戻ってきの。他でもないあなたが助けてくれたおかげよ。それにさっきも言ったけど、この件はお父様に知らせるつもりはないわ。私とあなた二人の間に収めておきましょう。だから顔を上げてよ。ね?」


そこまで言ってようやくアキトが顔を上げたので、私はほっとした。


でも、その紫色の瞳と目が合った瞬間、心臓が飛び跳ねた。


な……何!?


「ありがとうございます、お嬢様。寛大なお心遣い感謝申し上げます」


「え、ええ、いいのよ。おほほほほほ」


頬に手を添えて白々しいお嬢様笑いをする。でも、心臓のドキドキは止まらない。


やばい。アキトに見られてるってだけで恥ずかしい。


何でいきなり? 誘拐からのドタバタ救出劇で、疲れてるのかな?


「お嬢様。よろしければ、一つお聞きしたいのですが」


こんなときに限って、アキトは目をそらさずに尋ねてくる。うう~見ないでえ……。


「いいわよ、何?」


「お嬢様は眼鏡をかけた男性と制服デートをするために、眼鏡科を作られたのですよね」


ずばりと確信を突かれて、私は仰天(ぎょうてん)した。


「ええー!! どうしてそれを!!」


「リュシアン様とお話しになっている際、心の声がダダ漏れでしたから」


アキトは呆れたように苦笑している。


「違うのよアキト。そりゃあもちろん、私は眼鏡男子が好きよ。でも、眼鏡科を作ったのは、それだけが理由じゃなくって」


「はい、承知しております」


珍しくアキトは私の言葉を遮った。


あれ……やっぱり何か怒ってる?


「私がお伺いしたいのは、デートのお相手です。お嬢様は眼鏡をかけて制服を着た男性であれば、どなたでもよろしいのですか」


「え……」


しどろもどろになる私に、アキトは再び距離を詰めてきた。


いや近い近い、近いって!!


「もしそうなら、俺でもいいってことですよね?」


「だめっ」


心臓がもたないよ。


お願い、もうやめて~!!

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