第21話 かくかくしかじかを伝えました
「あなたが囚われていた城は、ウェンゼル公爵家の本家ではなく、オスカー様が所有されている別邸です。ですので今回の件は、ウェンゼル公爵がご子息を使って行われたのではなく、オスカー様の独断と私は考えました」
「そうよ、オスカーもそう言ってたわ」
独断というより暴走だけどね。
「しかし、去り際オスカー様は、あなたと結婚するとおっしゃいました。そうなれば、家同士の問題になってまいります。オスカー様があなたと既成事実を作り、強引に結婚を推し進めようとされているのなら、私は公爵様にご報告差し上げなければなりません」
「既成事実!? いや、ないない!」
私は公爵令嬢らしからぬ所作(しょさ)で、思いっきり手を左右に振った。
「しかし、私が部屋に踏み入ったとき、お嬢様はオスカー様の上に乗っておられたようにお見受けしましたが」
「違う違う。あれは眼鏡のことで口論になって、オスカーが結婚とかわけ分からないこと言い出すもんだから、勢いあまってあんな感じになっただけ。アキトが思うような、エロいことは何も……」
いや、何もなかったとは言えないかも。押し倒されてたし。
「お嬢様?」
アキトの目が鋭くなる。鷹もびっくりな鋭さ。何でも見抜かれちゃいそう。
「とにかく! 私はオスカーと結婚するつもりはありません。それと、今回の件はお父様には報告しないで。詳しいことは今から説明するけど、基本オスカーの勘違いだから」
オスカーと話した内容をアキトに伝えると、アキトは眉を寄せた。
その表情に、強い懸念が滲んでいる。
「そういうことでしたか……。眼鏡の有益性に気づく者はいるだろうと思っていましたが、まさか、こんなに早くウェンゼルが動くとは。油断ならないですね」
「ねえ、アキト。アキトは怪我ないの?」
よく見ればスーツはぼろぼろだし、いつもきっちりオールバックにしているはずの髪も乱れている。
髪をおろしたアキトは、いつもよりちょっと幼く見える。
「問題ありません」
「あんなに大人数を相手に、よく蹴散らして帰ってこられたよね。アキトってもしかして喧嘩強いの? 元ヤンキーとか?」
オスカーは剣を持ってたし、他の執事も屈強(くっきょう)だった。
でもアキトは武器を持っていたようには見えなかったし、何より私を抱きかかえていたのだ。
目をつむっててほとんど見れなかったけど、アキトはかなり腕が立つのかも。
「不意打ちでなければ、あの程度の人数は倒せます。訓練された軍人ならともかく、相手はただの執事とお坊っちゃまですから」
表情といい口調といい、若干ディスりが隠しきれていない。
もしかして、これがアキトの素なのかも。
いつもは執事らしくふるまってるけど、アキトだって一人の男性だもんね。
いろいろ思うところはあるか……。
「お嬢様。……本当に申し訳ありませんでした」
「え?」
「わたくしは、お嬢様の執事失格です」
そう言うと、アキトは私の手を離し、床に膝をついてこうべを垂れた。
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