第20話 眼鏡科に帰ってきました


眼鏡科はプリスタイン領の端のほうにあるから、ウェンゼル領との距離はそう遠くない。


アキトに馬に乗せられて駆けること数十分、プリスタイン公立学園眼鏡科の城が見えてきた。


辺りはもう、とっぷりと日が暮れている。


寮の自室に入ると、私はベッドに飛び込んだ。


「はあ、疲れた~」


何が疲れたって、アキトが一言も口を聞かないんだもん。


ずっと怒った顔でむっつりしてる。


「ありがとね、アキト。助けに来てくれて」


笑顔でねぎらったけれど、アキトはにこりともしなかった。


「リュシアン様には、お嬢様が無事である旨伝えておきました」


「そっか……。心配かけちゃったもんね」


それにしてもこの部屋、学生寮とは思えないぐらい豪華だ。


広いし内装も綺麗だし、私が寝転がってるベッドもキングサイズだ。


お風呂やトイレもぴかぴかで、ホテルみたい。


鈴を鳴らせばすぐにメイドがやってくる。


うーむ、お父様ってばお金かけてるなあ。


「ご無事ですか」


気がつくと、アキトは私の間近で膝をつき、じっとこちらを見上げていた。


その瞬間、体がかっと熱くなる。


え!? 何なに?! 


何か変だ、私。


「あ、え、ええ。大丈夫よ」


「お怪我はありませんか」


体を確かめようとアキトが手を伸ばしかけるが、思わず振り払ってしまう。


「大丈夫だって! どこも怪我してないから」


「では、オスカー様に何かされていませんか」


「何かって? ……あ」


気づいて、今度は顔が燃えるぐらい熱くなった。


「な、な、な、何もないわよ!!」


「本当ですか?」


「本当に決まってるじゃない! 何でそんな恥ずかしいこと聞くの、アキトのばかっ」


グーパンチした手を受け止めて、アキトは指の間に指を差し入れてきた。きゃー!!


「何するの、離してっ」


「お嬢様、お聞きください。あなたが思われている以上に、事は重大なのです」


アキトは真剣な眼差しで言った。

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