第19話 ガチギレで救出されました


私はオスカーの体の上にうつ伏せの体勢でいたので、抱きかかえられてようやく気づいた。


「アキト……!」


アキトだ。助けに来てくれたのね。


その顔を見た瞬間、自分でもびっくりするぐらいほっとした。


でも、アキトは私の顔を見ず、鋭い語調で詰問(きつもん)した。


「これは一体どういうことですか。オスカー・ロミオ・ヴィクター・ジョージ・ウェンゼル様」


オスカーの顔色が変わった。


この世界――リアンダー王国では、身分が下の者から上の者に話しかけることは許されない。


その上、長ったらしい正式名称(つまり本名)を呼んでいいのも、本人と目上の者だけだ。


これは私でも知ってるぐらい常識で、アキトは今めちゃくちゃ失礼なことをしているのだ。


「ちょっとアキト」


お姫様抱っこの状態のまま、慌ててアキトの袖を引いたが、彼は見向きもしない。


「貴様こそどういうつもりだ」


オスカーは手近にあったサーベルを手に、オスカーに正対した。


やばい、アキトが殺される!!


「やめて、オスカー!」


私は叫んだ。


「この方はプリスタイン公爵令嬢です。許しもなく浚(さら)うなど言語道断。あなたを敵として排除いたします」


アキトは一歩も引かない。黒縁眼鏡の奥の、紫の瞳が怒りに燃えている。


こんな顔、十六年間見たことない。アキトが我を忘れて怒るなんて。


「黙れ執事風情が。ティアメイと俺は結婚を約束した間柄だ。貴様ごとき平民に口出しされるいわれはない!」


「いや、してないしてない!」


これ以上、話がややこしくなるのはごめんだ。


私はおろしてもらおうと身じろぎしたが、アキトはわざと力を込めて離さない。


仕方ないので、お姫様抱っこされた状態のまま言った。


「オスカー、執事の非礼はわたくしの責任です。お詫びいたします」


「ティアメイ様……!」


アキトが傷ついたように表情を歪める。


「ここであなたが暴走すれば、私もあなたもプリスタイン公爵家も不利になるだけよ。冷静になって」


私は聞き取れるぎりぎりの小声で、早口で言った。


その言葉に、アキトの腕にこもっていた力がわずかに緩む。


「ただ、今日のところは一旦おいとまさせていただきます。あなたが先ほど言ったとおり、わたくしも争いを望んではいません。双方にとって一番よい道を探りましょう」


「駄目だ。おい、誰か!! 花嫁(ティアメイ)を守れ、逃がすな!!」


オスカーが声を張り上げた瞬間、ぞろぞろと数人の執事が現れた。


彼らを見て、アキトが臨戦態勢になる。


「アキト、お願い。私を眼鏡科まで連れて帰って」


「かしこまりました。今度こそ、命に代えてもお守りいたします」


痛いぐらいに、アキトは私の体を強く抱きしめた。














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