第18話 眼鏡を人質にされました


「発想がおかしいでしょ、何で眼鏡のために結婚!?」


「家柄も釣り合ってるし、両家の関係を改善するためにもちょうどいい」


「そんなの嫌よ! 私には眼鏡男子と制服デートするっていう野望がっ」


心の声がだだ漏れになって、はっと口をつぐむ。


オスカーはなぜか、ちょっと傷ついた表情でふてくされた。


「べ、別に俺だってお前と結婚したいわけじゃないんだからな!! ウェンゼル公爵家のために仕方なく言ってやってるんだ」


「いい、いい。お申し出は謹(つつし)んで、熨斗袋に包んで丁重にお返しさせていただきます」


「ノシブクロ?」


この世界にはない単語に、オスカーが眉を寄せる。


「とっとにかく、結婚なんてあり得ないから。そんなことしなくても、眼鏡のことは心配しなくて大丈夫だから。ね?」


「お前の意見なんか知ったことか」


と言うと、オスカーは私の肩をつかんでソファーの上に押し倒した。


「ちょ、ちょっと待って!!」


「待たない。ドSだって言ったろ」


「いや、これドSじゃなくてただの犯罪! やりすぎだって、本当やめてっ」


まさか、こんな少女漫画的展開が自分の身に起こるなんて!


私はパニックだった。


手足をばたつかせ、あまりにも嫌そうな顔をしているせいか、オスカーの力が緩んだ。


「……お前、眼鏡が好きなんだろ」


目をつむっていた私は、うっすらと瞼を上げる。


オスカーは整った顔にかけた眼鏡の弦(つる)に指を添え、くいくいと上下に動かした。


「眼鏡をかけたこの顔がお気に入りなんだろ。違うか?」


「はい、そうです!!」


ソファーに倒れた状態のまま、さながら軍隊のように、びしっと手を当てて敬礼する。


「お前が俺と結婚しないなら、俺は今この場で眼鏡を外す」


「え!?」


「そして、もう一生かけない。敵の作ったものだからな」


「そ、そんな殺生(せっしょう)な!」


私は青ざめた。


このままじゃ貴重なイケメン眼鏡男子人口を失ってしまう!


「さあ、どうする?」


「ううう……」


やばい、涙目になってきた。


眼鏡男子の存在を守るために結婚するべきか、眼鏡科で制服デートの野望を優先すべきか。


二択が意味不明すぎる。


「仕方ない。お前が承諾しないなら……最終手段だ」


オスカーが眼鏡を外そうとし、私は思わず手を伸ばした。


「いやあああっ!! お願いやめて、それだけは~!」


「うわっ!」


勢いあまってバランスを崩し、オスカーの体の上に覆いかぶさる形になる。


同時にバン、という音がして、ドアが開いた。

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