第17話 眼鏡のために求婚されました
ぐい、と近づいてきて顎に手を添えて持ち上げられる。
これは――いわゆる『顎クイ』というやつではないか。
「……まだ状況が分かってないみたいだな。俺はお前の敵なんだよ」
至近距離で見つめられて、顔がかっと熱くなる。
こ、こんなの前世でも経験したことないよ~! どうしたらいいの?!
間近で眼鏡男子と見つめ合うチャンスなんて二度とないかもしれないから、とりあえずガン見しとく?
……いや、恥ずかしくて無理~!!
「ウェンゼル公爵家に害をなす可能性がある限り、お前を帰すわけにはいかない」
「ひ、人質ってこと?」
「そうだ」
オスカーは頷いた。
「よく考えて、オスカー。私をこのままここに置いておけば、お父様だって動かざるを得ない。あなたが起こした行動によって、本当に戦争を引き起こしてしまうのよ」
一瞬でも正面から瞳を見つめるのは勇気が要ったけど、ここは照れている場合ではない。
「逆に、今ならまだ間に合うわ。私を解放してくれれば、今日のことは他言しない。眼鏡を平和的に利用するというのが信じられないのなら、誓約書を書きます。その上で、プリスタインが戦争を起こそうとしているか、好きなだけ調べればいい」
私の考えを天秤(てんびん)にかけているのか、オスカーは思慮深い表情になる。
よし、もうひと押しだ!
「私は眼鏡が好きなの。大好きなものを、戦争の道具になんかしない。眼鏡科も、今は技術と職人の保護のためにプリスタイン公爵領の人に限ってるけど、いずれは他領からも留学生を募集しようと思ってるわ。だから、それまで待っててほしいの」
オスカーは私の顎から手を離した。
「……お前に悪意がないことは、よく分かった。それに俺も戦争がしたいわけじゃない」
おお、分かってくれたのね!?
「ありが、」
「だが正直、眼鏡は便利すぎる。その価値は計り知れない。これさえあれば、ウェンゼル領だけでなく国全体の発展にもつながるはずだ」
「うんうん、そうよね。だから私もお父様と相談して、なるべく早く」
「いや、待てない。今すぐ眼鏡製作技術が欲しい。だから結婚しよう」
「……は?」
今、何て言った? 結婚?
オスカーは真顔で繰り返した。
「プリスタインとの平和的関係を保ち、なおかつ眼鏡の技術も手に入れるためには、俺とお前が結婚するしかない。俺が責任もって、お前ごと眼鏡をもらい受ける」
「え、ちょ、はあああああ!?」
眼鏡のために私と結婚するなんて、そんなのあり?
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