第14話 家同士は犬猿の仲でした
ふわふわ、ふわふわ、マシュマロの上にいるみたい。
あー、いい気持ち。
ごろんと寝返りをして、大きく伸びをして、目覚めたら、視界に見知らぬ光景が飛び込んできた。
……あれ?
私の部屋って、こんな感じだったっけ?
「アキト……?」
「やっと目が覚めたか」
聞き慣れない声に、私はぎょっとした。
「誰?」
私が寝ているお姫様ベッドの向こう、豪華なカウチに金髪の少年が座っている。
その青縁の眼鏡を見て、ようやく全ての記憶が蘇った。
「あーっ、誘拐犯!!」
「誰が誘拐犯だ。人聞きの悪いこと言うな」
指さして叫ぶと、金髪眼鏡イケメンは苦い顔をした。
「目的は何? わ、私の体……?」
「アホか。お前みたいな貧乳、誰が襲うか」
「だだだ誰が貧乳よ! 言っとくけどね、前世より全然マシなんだからねっ」
「は? 前世?」
私ははっと口を手で押さえる。
「……と、とにかく、誘拐ってことはあれ? 身代金目的とか?」
その言葉に、彼は本気でむっとしたようだった。
険悪な表情で私を睨みつける。
「無礼者が、口を慎め。その言葉、我がウェンゼル公爵家への侮辱と受け取るぞ」
うわあ、イケメンが怒ると迫力あるわ~。
でも、こっちだって負けてはいられない。
「無礼はそちらのほうでしょう。
わたくしはティアメイ・アネット・ルーシー・クレア・プリスタイン。
プリスタイン公爵の娘を断りもなく身勝手にさらっておいて、ただで済むとは思ってないでしょうね」
私の迫力に、金髪眼鏡イケメンがややたじろいだ。
しばらく睨み合っていたが、やがて根負けしたのか、不服そうに言う。
「お前、俺を覚えていないのか」
「へ?」
思わず間抜けな声で返事すると、彼は深いため息をついた。
「……我が名はオスカー・ロミオ・ヴィクター・ジョージ・ウェンゼル。ウェンゼル公爵家の次期当主だ。貴殿とは以前、茶会で何度かお会いしているはずだが」
「ええーそうだったっけ……」
公爵家ということは、私と同じ身分の公爵子息ということだ。
確かに言われてみれば、ちょっとした仕草に育ちのよさと気品が滲み出ている。
もしかすると、眼鏡がめちゃくちゃ似合っているため、そこに気を取られて思い出せないのかもしれない。
お茶会の時点ではオスカーは眼鏡をかけてなかったはずだしね。
ん? ウェンゼル公爵家?
その名前、どこかで聞いたことがあるような……。
「我がウェンゼル公爵家と、お前のプリスタイン公爵家は領国が隣り合っており、かねてより犬猿の間柄だ。お前は敵の顔も知らないのか」
「あー! やっぱりそうだ!! お父様から聞いたわ、何か家同士仲悪いらしいね」
オスカーが、がくっと肩を落とす。
「そんなことより、どうして眼鏡を持ってるの? 眼鏡は今プリスタイン領でしか手に入らないはずよ」
「そんなことより??」
意表を突かれたのか、オスカーがぎょっとした顔をする。
「さっきまで誘拐だ何だってぎゃーぎゃー騒いでたくせに、身の危険はどこへ行った」
「だって、お隣さんなんでしょ? しかも同じ公爵家だし、誘拐ってわけでもないっぽいし。だったら次に気にするのは眼鏡でしょうよ」
「何だその理屈は……」
オスカーは理解不能といった目をしている。
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