第15話 自称ドSと眼鏡トークをしました


「これは眼鏡というのか」


オスカーは自分の眼鏡を指さして言った。


「俺は目は悪くないほうだが、これをかけると弓の命中精度が相当上がる。細かい文字も読み解けるし、かなり遠くまで見通すこともできる」


「そうでしょ。便利だよね、眼鏡って」


しかも、かけている姿が目の保養と癒しになる。


眼鏡って何て素晴らしいんだろう。


人類史上、最高の発明品といっても過言ではないのじゃなかろうか。


うっとりしていると、オスカーは声を低めて言った。


「俺は眼鏡について調べるために、お前をここに連れてきた。噂では、眼鏡を広めたのはプリスタイン公爵令嬢であるお前らしいからな。眼鏡に最も詳しい人間というわけだ」


「やだ、オスカー、あなたも眼鏡好きだったの? もしかして眼鏡フェチ?」


「は? フェチ?」


オスカーは虚を突かれたようで、反応が鈍った。


「眼鏡について知りたいんでしょう? 眼鏡愛を語りたいんでしょ? 分かる分かる。私も製法とかは詳しくないけど、どういう眼鏡が似合うかは教えてあげられると思う。今かけてるのも似合ってるけど、茶色の縁とか、丸っぽいのもいいし、いっそ縁なしとかも似合うかも!」


「……ちょっと何言ってるか分からないんだが」


私はベッドから降りて、オスカーに近づいた。


さらさらの金髪、綺麗な青い瞳。


この世界の顔面偏差値は基本的に高いけど、オスカーは中でもとびっきりだ。


「イケメン金髪眼鏡男子、最高……」


じゅるり、とよだれが出そうになり、慌てて口元を押さえる。


そのとき、オスカーの手が私の手首をぎゅっとつかんだ。


「分かってないようだから教えてやるが、俺はドSだぞ」


「ドSキター!! 金髪イケメン眼鏡にドSって、どんだけ要素盛り込んだら気が済むのよ!」


「うるさい!! お前は今、敵の本拠地にいるんだ。わけの分からないことを言って俺を煙に巻こうとしているようだが、そうはいかない。全てを白状するまで帰さないからな」


「全てって言われても……」


何だか話がかみ合っていない気がする。


オスカーが私をさらってまで、眼鏡について知りたがっているのは分かった。


この世界じゃ存在しなかった発明品だから、珍しいもんね。


「単刀直入に聞く。お前はこの眼鏡を使って、何がしたいんだ」


オスカーは鋭い眼光で尋ねた。


「何って……?」


「プリスタイン公爵家は、眼鏡を軍事目的で発明したのかと聞いている」


「軍事目的?!」


私は「ぶはっ」と噴き出した。


「軍事目的って、戦争とかそういうこと? ないない、ないです。どこをどう間違えたら、そんな発想になるのよ~」


笑いながら空いている左手でオスカーの肩をたたいたが、彼はにこりともしない。


真剣な表情で私を見つめ、手首を握りしめている。


あれ……? 何か空気重くない?


「あのー、そろそろ放してほしいんだけど」


「さっき言ったろ。眼鏡をかければ弓の精度が上がり、細かい文字が読め、遠くを見通すことができると」


「うん、言ってたけど、それより手をですね」


「つまり眼鏡を装着すれば、兵士は優れた弓の使い手になり、極小文字を使った暗号を使え、敵地の偵察も容易になるということだ」


オスカーの言わんとすることにようやく気づいて、私は青ざめた。

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