第13話 イケメン眼鏡男子に誘拐されました



「うわあ……綺麗」


庭園に入ると、リュシアンが思わず声を上げた。


広大な敷地には花壇や植え込みが美しく配置され、噴水からは清らかな水が流れてせせらぎを作っている。


季節は五月ということもあり、薔薇の花が咲き乱れていた。


「素敵なお庭ね。あの東屋まで行ってみましょう」


白い小ぢんまりとした東屋を指さし、私は言った。


流れる川には大理石の橋がかかっていて、薔薇のアーチがいくつも並んでいる。


リュシアンが「はい」と答えたのと、アキトが気配に気づいたのは、ほぼ同時だった。


「アキト?」


「お嬢様、ここは危険です」


緊迫した表情を見て、私は驚いた。


ど、どういうこと?


リュシアンも目を丸くして立ち尽くしている。


「退避します」


短く言うと、アキトは私の手を引いて走り出した。


「え、え!? アキト?」


すると、私たちの行く手に突然、複数の人影が現れた。


先頭に立っているのは金髪の少年だ。


しかも、青い縁の眼鏡をかけている(ここ重要)。


一瞬、眼鏡科の生徒かと思ったけれど、制服が違うことにすぐ気づいた。


後ろには五人ぐらい、黒いスーツを着た男性が並んでいた。


「お前がティアメイだな」


私の前にかばうように立つ、アキトの肩が強張った。


「あなたは……?」


言いかけるや否や、黒スーツの男性がアキトにつかみかかり、私たちを強制的に引き離した。


「アキト!」


「お嬢様お逃げください!」


アキトは応戦するが、多勢に無勢で地面に引き倒されてしまう。


私はすくみ上がった。


何……? 何が起こってるの?!


「姫様っ」


少し遅れてリュシアンが私のもとに近寄ろうとしたが、黒スーツの男性に羽交い絞めにされてしまう。


「リュシアン!」


「話は後だ。連れていけ」


金髪眼鏡少年が指示すると、私の体が浮き上がった。


「きゃあっ!?」


悲鳴を上げて抵抗するけれど、肩の上に担ぎ上げられてびくともしない。


うそうそ、私、どうなっちゃうの!?


「何なの!? おろしてっ、せっかくのデートが!」


口に布を押し当てられ、急激な眠気が襲ってくる。


あ……やばい。これ、眠らされて拉致られるやつだ。


「ティアメイ様!!!」


アキトの絶叫が聞こえてくる。


でも、目の前が真っ暗になって何も見えない。


ああ、私は眼鏡男子と制服デートしたいだけなのに、何でこうなるの!?


「眼鏡……デート……」


その言葉を最後に、私の意識は強制終了となった。

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