第9話 いじめっ子を撃退しました


男子生徒たちは、私の顔を見て凍りついた。


「が、学園長……!」


わー、学園長っていい響き~。

なんて、悦に入ってる場合じゃない。


「あなたたち、一体そこで何をしているのです」


「あ、あの……プリスタイン公爵令嬢。これはですね」


言い訳をしようとしたリーダー格の男子生徒に、私は毅然(きぜん)と言い放っていた。


「私の大事な眼鏡を傷つける人は、誰であっても許しませんよ」


ん?何か違う?


表現はともかく、この胸にふつふつと煮えたぎる怒りは伝わったと思う。


謎の剣幕(けんまく)に気圧(けお)されて、リーダー格の男子生徒は「うっ」と言葉を詰まらせているし、残りの二人も及び腰になっているようだ。


「違うんです。これはその……」


私は三人をかわるがわる睨みつけながら、リュシアンの元に歩み寄った。


その場に膝をつき、持っていたハンカチを差し出す。


「大丈夫? 立てる?」


「は、はい! 大丈夫です」


リュシアンは驚いたのか、顔を真っ赤にしている。


私はにっこり微笑むと、地面に落ちた彼の眼鏡を拾い上げ、丁寧に砂を払いのけてリュシアンに手渡した。


「少し歪んでしまったわね……。アキト」


「はい、後ほど修理をお願いしてみます」


「ありがとう」


「公爵令嬢。も、申し訳ありませんでした……!」


リーダー格の男子生徒が頭を下げ、取り巻きの二人も「申し訳ありませんでした!」と直立不動の体勢で詫びる。


「謝る相手が違うのではなくって?」


冷ややかに私は彼らを見下ろす。


すると三人は顔を見合わせ、屈辱の表情を浮かべて立ちすくんだ。


「無礼な振る舞いをしたこと、暴言を吐いたこと、リュシアンに心から謝罪しなさい」


「も、もういいんです。僕は」


「いいえ、よくありません。眼鏡科の生徒に上下はありません。どのような身分の方も、皆、平等に一人の生徒なのです。そのことはお分かりいただけますね?」


問いかけると、三人はこくこくと頷いた。


そして自らリュシアンの前で膝を折り、深々と頭を下げた。


「先ほどの侮辱する言動の数々を、心よりお詫びいたします。本当に申し訳ありませんでした」


私は溜息をついた。


まったく、子どもじゃないんだから。


あ、子どもか。まだ十五、六歳だもんね。


前世で高校生を一度経験した大人としては、複雑な気分だ。


「どうしますか? リュシアン。謝罪を受け入れますか」


「はい、姫様」


吹き出しそうになった。おいおい、姫様て。


「分かりました。では、もうお行きなさい。今後は眼鏡科の生徒として、ふさわしい振る舞いを期待していますよ」


三人が去った後、リュシアンは「じゃあ僕もこれで……」と言いかけたので、私ははっしと制服の袖をつかんだ。


「待って!」

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