第10話 人生初ナンパをしました


リュシアンは肩をびくっとさせて、大きな緑色の瞳で私を見つめた。


小柄なので、目線は私とほとんど同じ場所にある。


「あ……助けていただいて、本当にありがとうございました」


「ううん! いいの。それより、私のこと覚えてる?」


リュシアンはきょとんとした表情で、


「はい、もちろんです。プリスタイン公爵家の姫様」


「そうかしこまらずに、気軽にティアメイって呼んでくださいな。また会えて嬉しいわ、リュシアン」


手を差し出すと、リュシアンは顔を真っ赤にして握手を返してくれた。


「ぼ、ぼ、僕も……またお会いできて、う、嬉しいです」


「あなたはたしか、一年生よね」


「はい。僕は十五歳なので一年生です。姫様は普通科から眼鏡科の二年生に転入されたのですよね」


「ええ。お父様はお元気? 眼鏡科に特別講師としてお招きしたのだけれど」


「元気です。工房のほうも、あれから眼鏡の注文が殺到して、たくさん職人さんを雇って頑張っています」


「そうよね、眼鏡はプリスタイン領の一大ブームだものね。お忙しい中、ご協力いただいてありがとうってお伝えしてね」


「とんでもないです! 姫様や公爵様が眼鏡を認めてくださったおかげで、僕の人生は変わりました。ただの平民だったのに、父が男爵になって、眼鏡科にまで入学できて。本当に感謝してます」


たどたどしくも一生懸命に言葉を紡ぐリュシアンを、アキトは優しい目で見つめている。


「僕、小さい頃は目が見えにくいせいで、しょっちゅう壁や柱に頭をぶつけて怪我してたんです。市民学校でも教科書や黒板の文字が読みづらくて、授業が分からなくて。工房の手伝いをしても、馬鹿だ、グズだって言われてました。

父が見るに見かねて眼鏡を作ってくれて、そのおかげでやっといろんな文字が分かるようになったんです。

でも……目が見えるようになったからって、頭がよくなるわけじゃないんですよね」


うつむいたリュシアンの手を取って、私は首を振った。


「リュシアン。あなたは存在しているだけで価値があるのよ」


なぜなら、眼鏡男子だから。


しかもショタ。最高である。


「え……」


驚いて目を見開いているリュシアンに、私は微笑みかけた。


「少なくとも、私にとっては間違いなくそうよ。だから自信を持って」


「姫様……。ありがとうございます」


リュシアンの笑顔がぱっと花開いた。めっちゃかわいい。


そのとき、電流が駆け抜けるようにして、名案が閃いた。


「今よ。今しかないわ」


「お嬢様……?」


怪訝な顔をするアキトをそっちのけで、私はリュシアンの両肩に手を置いて言った。


「ねえ、リュシアン。私とデートしない?」

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