第6話 恵方巻が食べきれなかった

 昨夜は節分ということで恵方巻を食べた。20年生きてて初めてだ。我が家では、クリスマスにケーキを食べるくらいがイベントらしいもので、節分なんてだいぶ久しぶりに意識した。

 私が幼稚園生だったころは祖父に豆を思いっきり投げていた。体に当てればいいものを私は顔に向かって投げてばかりいた気がする。相手は鬼だ、容赦はしない。

 活発な幼稚園時代を振り返りつつ、私はサラダとみそ汁に手をつけた。ベジファーストってやつだ。テーブルの向かいには中学三年生の弟が座っていて、すでに恵方巻を頬張っていた。弟が急いで食べようとするので私は咄嗟に「ゆっくり食べなさい」と声を荒げてしまった。すると、弟は「うん」と返事をした。しまった、と私は思った。恵方巻のルールが完全に頭から抜けていた。弟も初めてのものだからたいして意識していなかったのだと思う。弟には申し訳ないことをした。

 私はおかずを食べ終わり、残すは恵方巻のみとなった。今年は南南東ということで、スマホのコンパスを頼りに方角を確かめる。恵方巻はスーパーのものでツナ巻きだった。他にも、玉子、かにかま、レタスが入っていた。これだって立派な恵方巻だ、バカにするな。

 三分の一程度を食べ進めた辺りで、これは食べきれない、と感じ始める。そもそも私は小食で、ご飯をおかわりするようなものなら家族が「珍しい」と言葉を漏らす。なんとか半分まで食べ進めるもギブアップした。私にしては大奮闘だ。

 そういえば、家族の健康を願い忘れた。食べることに精一杯だったからだ。しかし、まだ恵方巻は胃袋にある。今から願えば叶うだろうか。おまけに全部食べ切れていない。どうかこのエッセイの読者が私との縁を切らないことを願う。後から願ってばかりの節分になってしまった。こんな節分も悪くないか。

 

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