後ろを振り返る

はなだひより。

第1話

私の人生は、多分、この時が分岐点だった。

…多分、じゃない。絶対だ。

この出来事がなければ、あなたには絶対会えなかったからー。





「…さゆり!!さゆり!!」

目を開けると無機質な白い光だけが目に入った。真っ白な部屋。仰向けになって寝ている私の左に立っていた母親が私に向かって泣きながら名前を叫んでいる。


…未だに状況が理解できない。


ぼーっとした頭をフル回転させてみるが、何も思い出せない。ここはどこ?私は何でここにいるんだろう?身体がとても重い。残された力で右に目をやると、腕にたくさんの管がつながれていた。青い液体が私の体内に入っている。


そんなことを考えていると、母親が興奮した状態で口を開いた。

「さゆり、研修所で薬をいっぱい飲んで、病院に運ばれてん。是永さんが部屋で倒れているさゆりを見つけて救急車呼んでくれてんで。」


是永さんー。母親は研修所の教育官の名前を出した。

まだ頭は痛く、あまり思考も働かないが、何となく状況は理解できてきた。



「小宮、無事でよかったよ。本当に。」

震えた声で私の上の名前を呼ぶ。右側に立っているのは是永さんだ。


「研修、しんどかってんね。もうお母さんと大阪に帰れるからね。ゆっくり休んでね。」

是永さんは目に涙を浮かべながら、私に話しかける。


帰りたくないー。私は泣きながらそう叫んだが、声が出ない。何度も叫んだが、それでも声は出なかった。


「向こうで病院の先生とお母さんと話してくるから、もうちょっと寝ておいてね。」

行かないで。大阪に帰りたくない。そう何度も口にしたが、是永さんと母親にその声は届かず、2人は去っていった。


残された私に倦怠感と眠気が襲い、私は再び目を閉じたー。




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後ろを振り返る はなだひより。 @yudetako

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