初めての友達はよそよそしいうわべだけの関係
最悪の三年生が終わった。私は四年生に進学した。クラス替えがあり、私に、話しかけてきてくれる子が一人いた。森下かなちゃんである。私は、とても有頂天になった。
森下さんはかわいい子ですこしお嬢様気質、お金持ちだった。大人しいタイプで正直にいえばつまらない感じだったが、私は、となりに人がいる、ということだけですごく安心できた。登下校が独りじゃなくなった。二人で歌ったり踊ったり、じゃんけんゲームをしながら帰った。ぐーが、ぐりこ、チョキがチョコレート、ぱーがパイナップルの、字数だけすすめる、有名なあのゲームである。
生まれて初めて、妹や弟以外の友人だった。
ただ、私はわがままで、森下さんにたいしてつまらない子だなという感想もいだいていた。
いかに自分がつまらないかを棚にあげて人を批判したのだから、偉そうなおおばかものだと今は思う。森下さんとうちとけて、仲良くしようという努力をしなかった。
森下さんは、私にニックネームをつけてくれた。アヤリン、である。りん、てつくのはなんだかこっぱずかしく、しっくりこず、嫌だなと思ったが、うわべで仲良くすることを覚えた心の汚い私は、そのニックネームを気に入ったふりをし、その日からアヤリンと呼ばれるようになった。
森下さんは、アメリカのぬいぐるみ、ファービーを持っていた。ファービーには、中に機械が搭載されており、しゃべる、おどる、ため息をつく、歩くのだ。子どもにとってだっこ人形みたいな感じである。ただし、アメリカの子達向けのデザインなので、目がギョロっとしていて、可愛くない。宇宙人ぽい。鳥だから羽があり、体はふわふわの毛で覆われているが、中に機会があるから、だっこするとかちんこちんである。
森下さんはこのファービーで遊びたいと提案してきた。私は母親にねだりファービーを一匹かってもらった。本当はギョロ目のへんな鳥なんか欲しくなかったのだが、森下さんと一緒がよかったから。
森下さんのファービーと向かいあわせにすると、機械が反応して二匹がおしゃべりした。そして歌いながら踊った。まあまあ、楽しかった。森下さんもまあまあ楽しかったのだろうと思う。
二匹いるとしゃべる、おどる、っていうのは人間も同じ。
二人よれば何かしらおしゃべりをしないと意志疎通できない。思いは言葉にして初めて伝わり、伝わってはじめて理解される。
私は、心を閉ざしていた。本当はおしゃべりおばさんなのに、緊張のせいで言葉もでない。
せっかくできた森下さんという友達に私はあまり話さなかった。森下さんもそう。お互い大人しすぎた。
森下さんとは徐々に疎遠になった。
せっかくのご縁だったのに、とてももったいない。今なら、幼い小学校四年生の私自身を殴りにいきたいし、説教したい。
森下さんと疎遠になり、私はまた、孤立しはじめた。もう、死にたい気持ちはなくなったが、どうしても心の苦しみは晴れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます