第10話 中学時代1

壬生悠月みぶゆづき視点】


 入学式が終わり、クラス内では同じ小学校だったのであろうクラスメイト達が慣れた様子で仲良さそうに話している。


 親の仕事の都合で元々いた地元を離れ、中学からここに来たのだか疎外感を感じる。


 こうなる事を予想していた俺は制服のポケットから『春色のまきしまむっ!』の5巻を取り出して読むことにした。


 しおりを挟んでいたページを開く。


「……ねぇ、その本」


 すると、突然前の席の女子から話しかけられた。


「えっ」


「『春まき』よね?好きなの?」


「うん」


 綺麗な黒髪にぱっちりした目の女子。その手には俺と同じ『春まき』の5巻が。……なんだろう。この初対面とは思えぬ親近感は。


「一番好きなキャラは?」


『ソフィア』


 あ、しまった。馬鹿正直に俺が好きな銀髪ロリキャラを言ってしまった。引かれないだろうか。……ってあれ?ハモッた?


「同志ね」


 そんな心配はご無用だったらしく、すっ……と握手を求められ思わずガシッと熱い握手を交わしていた。何か自分に通じるものを感じ取ったのだ。


「嬉しいわ。まさか引っ越し先の中学校で『春まき』を好きな人に会えるなんて」


「俺も嬉しいよ」


「貴方名前は?」


「壬生悠月」


「悠月ね。私は深山睦月よ」


「睦月……よろしく。俺も中学からここに引っ越してきて周りに知ってる人いなくて……」




 ―――






 入学してから3週間が経った。


 俺は部活にも入らず放課後は睦月と本を読んだりゲームしたりしていた。


「……悠月」


「ん?なに?」


「昨日、なんとなく生徒手帳を見ていたのだけれど。この学校には同好会というシステムがあるらしいのよ」


「へぇ」


「私と一緒に同好会を作る気はないかしら?」


「もちろんいいよ」


 俺がそう答えると基本的に無表情の睦月の口角が僅かに上がったように見えた。


「でも同好会って言っても何するのさ」


「悠月って絵がうまいって言ってたわよね?」


「うん。俺もたまにファンレターに絵書いて送ってるけど」


「私と、本を作らないかしら?」


「本?」


「わ、私小説をネットに書いてあげているのだけれど」


 心なしか少し声が震えている睦月。


「え、凄いじゃん。どういう話!?」


 少しテンションがあがってしまった。


「ㇻ、ラブコメよ」


「読ませてよ。睦月が書いたラブコメ読んでみたい」


「……今日私の家に来てくれないかしら。見せるから」


「あ、うん」


「……笑われなくてよかったわ」


 心底ほっとしたように言う睦月。


「笑うわけないじゃん」


「え!?私口に……あ、ありがとう」


「いやいやお礼言われるようなことじゃないし」


 俺は自分達で本を作るという言葉に自分の今までの人生で一番ワクワクを感じていた。




―――


中学時代のお話は10話毎に1話ずつ書いていく予定です。読みに来てくれてありがとうございました。




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