第4話 沼
【
「春まきの新刊出てたわ」
ニヨニヨした睦月が『春色のまきしまむっ!』という13年続いているラブコメのラノベを持ってきた。
「やった。読んだら読ませて」
「いいけど、その代わりに私にもそれ見せなさい」
睦月が指さしたのは何となく面白そうなので買った『フレミン』いう多分癒し系の4コマ漫画である。
「悠月の買う本って面白いから」
「そういえば、睦月は最近あんまり開拓しないよね」
注)*開拓とは新たに面白そうな本を見つける事です。
「家の本棚が限界」
「新しい本棚買えば?俺は一昨日新しい本棚アマゾンで注文したけど」
「あの前から欲しいって言ってたヤツ?」
「そう、2個目。これでしばらくは大丈夫」
「……やっぱり私も本棚買お。悠月が羨ましくなってきた。ちょっと久しぶりに開拓してくるわ」
解き放たれる様な顔をしてそう言うと、ズンズンと漫画コーナーに行く睦月。
「……沼だな」
本好きの沼。
なんとも言えない気持ちで睦月を、待っていると肩をトントンと叩かれた。
振り向くと同じ大学であり高校時代からの友人である
「よっ」
「八満どうしてここに?」
「レポートするやる気出ねぇから気分転換にな」
「お疲れ」
「あぁ〜マジ課題多すぎんだろ〜壬生ちゃんはもちろん終わってんだろ?」
「うん」
「……あのさぁ……ほんと思うんだけど昔から壬生ちゃんってどやってやる気出してんの?」
「やる気は出てないよ。機械になりきる。自分は課題を解くためだけに生きる機械だって思い込んだら何ともない」
「自己暗示か〜やってみっかな俺も」
「やってみて」
「おう。……って、壬生ちゃんデートの途中だったのかよぉ!」
八満が俺の後ろを見て少し怯えながらそう言う。
「深山さん、ぅっす!」
謎の体育会系言語と共に頭を下げる八満。
過去に睦月と色々あってそれ以来後輩の様な部下の様な感じで睦月と接している。
「八満君。私に体育会系の態度で接するのはやめてと言っているわよね?」
「そ、そういう訳にはいかないですって!あ、デートの邪魔しちゃいけないんで俺はこれで!」
ペコペコして去っていく八満。
「相変わらず睦月に対してはあぁだね」
「やめてと言っているのだけれどね……悠月、開拓終わったから悠月の家に行きましょ。読みたいわ」
「沢山買ったね」
「もう私は本棚を気にしないことにしたわ」
「それがいいよ」
話しながら本屋を出ると、隣から指を触られる感覚が。
「……手」
「……分かった」
手を繋いで何も話さず家に帰った。
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