第3話道に迷いました

「おぇーー」

女の子が草むらでしゃがみこんではいている。

なぜかといえば、僕のせいなのだが……


一時間前

「ちょっと、もう無理、とまってぇー」

女の子が力ない小さな声で伝える。

その悲痛な願いは、アスラの耳には届かない。

何せ、時速40キロの速さで走っているのだから耳に届く前に風の音に書き消されてしまうのだ。

「もぉーむり、うぇっ」

女の子の口から食べたものの残骸がこぼれ落ちた。

ビチャ

もちろん、アスラの服や肌にかかった。

「うわっ!なんだこれ?」

そこで始めて女の子の様子がおかしいことに気づく。

「うっ、ちょっと、匂いが……」

「うぇーー、ヒック、うっ」

女の子は泣きべそをかきながら吐き気が収まるまでただ草むらに吐き続ける。

乗り物酔いの酷い状態といえばわかるだろうか?

アスラは、汚れた服をさっと脱いだ。

「近くに洗えそうな場所はあるかな?」

手を地面につけ地層を探る。

すると、運がいいことに近くに湖があることがわかった。

「近くの湖で服を洗ってくるね」

すぐ近くの湖にいこうとするアスラのズボンを女の子がすかさず掴む。

「うぇっ、あのねぇ、私が、うっ、魔物に、襲われたら師匠は悲しむわよ?」

まだ吐き気が治まらず一生懸命言葉を紡いだ。

「……わかった……理由はわかんないけど、直感が今はしたがった方がいいって言ってるし、一緒に行こうか!」

また、女の子を担いで走り出す。

そして、冒頭のあの状態に戻るわけだ……




「おぇーー」

女の子が草むらでしゃがみこんではいている。

なぜかといえば、僕のせいなのだが……

女の子を担いでの移動は今の女の子には向いていないらしい。

少し休んで他の方法を探すしかないのだろう。

女の子が落ち着くまでの間、汚れた服を湖で軽く汚れを落とし、魔法で匂いをとり乾かした。

(そういえば、吐き気が治まる薬あったような?)

家から持ってきた鞄のなかを探してみるとやはりあった。

瓶には行った緑色の粉薬だ。

その瓶に入ってる匙一杯分が一回分だ。

(薬の分量を間違えると、お腹を壊したり、色々と大変なことになってしまうので、“扱いにはきをつけなさい“って師匠言ってたな)

しみじみと懐かしむ。

その後女の子に適量を飲ませるとすぐ吐き気が治まった。

「うぇーん、止まってって言ったのになんで止まらなかったのー」

女の子は泣きじゃくりながらアスラに抗議した。

「ごめん、そんなにか弱いとは思ってなかったんだ。僕の周りの人たちはこれが普通だったから、本当にごめんね?」

アスラの言葉に女の子は絶句した。

「これが普通?ありえない……」

アスラに聞こえない小さな声でそう呟く。

「それより、この後はのんびり進もうと思うんだけど、どの方向が目的地に向かう道?」

女の子は周りを見渡す。

ハッと辺りを見て、見覚えのない道だとすぐ気づいた。

「ねぇ、来た道には戻れないのかしら?」

「えっと、ごめんね。忘れちゃった」

「……」

女の子は、地面に座り込んだ。

辺りはもう夕暮れ時、今から道を進むのは魔物に襲われるリスクが高い。

それに、目印の星は、朝しか見れない。

「実は、道に迷ってしまっていて、朝にならないと道がわからないの。こんなに暗いと魔物に会う確率が高くなるから今夜は野宿するしかないかもね」

「道は、わかんないから、わかったよ。あと、君の服軽く洗って魔法かけてあげようか?」

女の子は、今さらだが自分の服がとんでもないことになっていたのに気づいた。

顔が真っ赤になったり真っ青になったりコロコロ変わる。

「お、お願いします」

「じゃあ、服ちょうだい、洗うからさ」

「……ねぇ、1つ聞きたいんだけど、貴方女性よね?」

アスラの容姿は、中性的な顔立ちだが整っていて年齢で言う18歳くらいに見える。

体型も中性的だ。

「性別?もちろん男だよ?」

みるみる内に女の子の顔が真っ赤になる。

「や、や、やっぱりおかしいわよ、あんた」

「何が?早く服洗うから脱いでよ?」

「やっ、やっぱり自分でやる。先に休んでおいて」

「え?」

「いいから!」

アスラは、なぜ断られたかわからないまま寝床の準備にとりかかった。

(あのこ、どうしたんだろう?それにしても、師匠……早く会いたいな……)


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師匠が敵なんて信じない! 葉月みつは @hazukimizuha

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