#8 子連れのワルツ
そんな訳で、俺ん家に居座る事ンなったジェニフ
ァー。まだおねむの時間なようだ。
二人分の朝飯を作り、あの娘を起こす。
女の子の部屋に入る時ゃ、ノックが必須。
…返事がねぇ。
ったく、まだ寝てんのか、お姫様は?
後ろめてぇ気持ちを何とか押し込んで、部屋に入る。
すると、だ。筋トレしてるじゃないの。
良い心がけ…なのか?
ちっと開けっ放しになった彼女のバッグからちらっと
見えちまった。
ボストンバッグにいっぱいのライフルやら、
コルト・パイソン。ワルサー
…ありったけの武器。
おいおいおい。女のコがこんなもんどっから調達
してくんでぇ?
「言ったでしょ?犯人は必ず殺す、って。」
俺の視線に気づいたらしい。なんも言ってねぇよ。
朝飯を2人で食った。ベーコンエッグ。
パン。
コーヒー。
ベーコンエッグは、上手くタマゴが
目玉ンならなくてな。
パンは黒焦げ。
しょうがねぇだろうが、飯なんか作ったの
何年か振りなんだからよォ。まして他人に食わす
ためになんざ。
それでもこいつァ、それを全ェン部、平らげた。
その時もこいつの眼ァ、一点だけを睨んでた。
黒焦げパンをひと口齧り、そして睨んだ。
コーヒーを1口啜り、そして睨んだ。
ベーコンエッグを口の中へ押し込み、そして睨んだ。
噎せたりすること無く、一点だけを睨みつけてた。
その先には何も無かった。
あるのは割れたガラス戸と、
枯れたチューリップの
植えられた植木鉢。それだけだ。
きっとジェニファーにァ、その植木鉢が、
殺すべき敵に見えたんだろう。
或いは、ある日突然、死に別れた父親か。
んなもん俺にゃわからねぇ。
分かんのは、こいつにゃ俺しかもう居ねぇ、って
ことだけだ。
と、テレビで「テネシーワルツ」が流れた。
艶やかなパティ・ペイジの歌声が俺の部屋を
満たす。
皿を洗っていたジェニファーの手が止まってた。
その目に一筋、涙が流れるのが、見えちまった。
俺ァ何も言わなかった。
「父と母が好きだった曲。父は何度も聞かせて
くれた…」
あぁ、知ってるよ。
やつァ呑むと。いつもこの曲を吹いてた。
そん時ゃただ、酔っ払って調子づいてきただけか
と思ったが、君のためだったんだな。
今なら分かる。
トニーのアホタレがドンドンと、ドアを叩きやが
る音が、俺たちを現実に引き戻しやがった。
初対面のジェニファーに驚きつつ、
奴ァ続けた。
3ブロック先の廃工場で、俺に会いてぇって奴がい
るらしい。
なんで廃工場?と思いつつ、俺は向かった。
初対面のトニーにビビるジェニファーに、
大丈夫だから、こいつぁ馬鹿だけど信用出来るやつだから、と話し、
トニーにゃ、何かあったら連絡よこせ、
この娘に手ぇ出したら殺すぞ、と
念を押し、
廃工場へ、俺は向かった。
がちゃん、というドアを閉める音と共に
彼女の悲鳴が聞こえた。
俺ァトニーの頭に銃を突きつけ、
問い質した。
「やだなぁ、ちょっとオハナシしようとしてただ
けじゃないっすかぁ。」
なんて抜かしやがる奴の手には
しっかり、御立派なグロックが握られてンじゃね
ぇか。
「おう、じゃ俺ともオハナシしようや。
てめぇ、何してやがった?」
トニーはダンマリだ。
銃を奴の頭に更に押し込んで『答えろ!』つって
もこいつぁダンマリのまま。
埒があかねぇ。
俺ァ撃鉄を引いた。
本気だってのをわからせる為
にな。
と、アホタレの携帯がなった。
「取れ」
奴に言うと
素直に従った。
男の声がした。
「彼を離してはくれないかね?ケニー。」
その言い草にむかっ腹がたった俺ァ、
それを跳ねた。
「やなこったネ。名前も名乗らず人に命令するよ
うなやつの言うことなんざ、聞く耳は持ち合わせ
てねぇんでな。悪いが。」
『それは失礼した。私の名前は
ジョー・ブル。これでよろしいかね?』
俺ァその名をどっかで聞いた気がする。
…あぁ、確か何年か前、市長選挙で見事
落選されたジョー・ブルさんじゃござんせんか。
「思い出したかね?その通り、私は1度市長選で落
選している。2週間後に迫った市長選挙に向けて、
日夜努力をしている。」
いけしゃあしゃあと抜かしやがる。
「うら若い娘さんをアブねぇ目に遭わせんのが未
来の市長さんのやる事ですかい?
そりゃあそりゃあ、御立派なモンで。」
反吐がでらァな。ったく。
「なんと言ってくれても構わんが、いい加減、彼を
離してはくれないかね?
私は同じことを何度も言うのは嫌いなのだが。
そうでなければ、君の綺麗なブルーのシャツが、
赤い血に染まってしまうよ。私としては、
それだけは避けたい。
ブルーが好きなんだ。」
知ったこっちゃねぇ、
てめぇの趣味なんざァ。
俺は兎も角、ジェニファーがいるこの状況じゃ、
大っぴらにやり合うのァ避けた方がいい。
トニーを解放した。奴の言う通り。
あいつが立ち上がったのと同時に、銃声がした。
トニーが倒れ込んだ。
腹の辺りから血がだらだら出てる。
「へっ、あんたもう終わりだぜ、ケニー。
あば…よ。」
最期まで減らず口を叩きやがったアホタレを放置
し、
俺とジェニファーは家を出た。着の身着のまま。
どこへともなく車を走らせてると、後ろから着い
てくる車が、2台か3台俺らの車にぴったり着い
て来た。そのうちの一台、窓からツラ出してマシ
ンガンで打ってきた。
クソッタレが!こないだ磨いたばっかだってのに!
まごまごしてっと、
ジェニファーが窓からツラ出してマシンガンで応
戦した。
お前どっから持ってきた!?
…いや、そうじゃねぇ。
よくやった、よくやったよ、うん。
『もうちょい早く走りなよ、オジサン!』
うるせぇ、これで精一杯だっての!
弾切れになる前にあいつら撒かねぇと、ヤバい
ぞ。
ジェニファーが、相手のタイヤを撃ち抜いた。
あいつらの車はゴロゴロ転がってって爆発した。
俺ァ、テキトーに目に止まったモーテルに車を停
めた。
大急ぎで受付に駆け込み、
二人分の部屋を頼んだ。
2人とも部屋に着くなりベッタリとケツがベッドと
キスした。
あーーーーー…ジョニーの馬鹿野郎!
お前何したァァ!
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