第4話『友の決意と悪意の出現』

 山の山中にて、高練度炎の放出を確認。

 夜からの報告を受け、現地を視察して理解した。

 禍福の根付に正面から挑んでも、勝ち目の薄い事を理解した。

 自分に優しくしてくれた、かの友人を、真っ先に助けなければならないことを理解した。

 たとえ余計なものを祓おうとも、何としてでもあれは祓わなくてはならない。

 どうやら彼は妖怪共の甘言に騙されているようで、あれらが醜悪な生き物だということにまだ気が付いていないようであった。

 汚い世界を、汚い自分を見る前に、一刻も早く引き離さなくては。

 彼を救いだしたのちに、しかるべき想いをもって元凶を叩かねば。

 例えこの身を捧げることになろうとも、祓い師として生まれた以上、何も知らぬ民間人を助けることは、何事にも代えられぬ誉である。

 当主として何より友として、純たる人間を、悪しき妖怪共から取り返そう。

「待っていて、大輔」

 その頬を染めるのは怒気か正義心、はたまた信仰、享楽か。男の、紅を塗ったような形のいい唇が少しばかり戦慄いた。

 その視線はもはや何もない、炎上を経験したであろう虚空を定めるのみである。

 それを咎めるように風が男の髪を揺らした。

 青白い滑らかな頬にあたるたびに、しゃらしゃらと天上の音が聞こえてくるような心地であった。

 だがしかし、遠くを眺める男が気を付けねばならない事が一つ。

 自身の斜め後ろに佇む、影のような男の事である。

 ただ前だけを見つめる男には知る由もない、醜い心の歪みが、その口元にも滲み出てしまていた。

 彼がもう少しだけ、いつも一番近くにいる者の存在に気が付くことが出来ていたならば、また新たな未来が分岐し、生まれ出でていたのかもしれない。

 だがそれも夢へと消えたまほろば。とうの昔に消え去ったもの。

 この世の理想郷は、言ってしまえば存在すると断言するに足りないものだ。

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